くよくよ悩んでしまう人へ『小さいことにくよくよするな!』リチャード・カールソン


 スクリーンの向こう側で、仕事で成功した主人公が喜んでいる。大団円、ハッピーエンド。でも、それは所詮ドラマでしかないのだ。

 

 

 俺はちっ、と思わず舌打ちをした。普段なら気に留めないはずの、ドラマの主人公の幸せそうな笑顔が無性に腹が立った。

 

 

 彼は同僚にアイデアを奪われ、絶望したところから、ヒロインの女の子の励ましでやる気を取り戻し、再び仕事に返り咲いて、かつてよりもさらに優れた未来を手に入れた。

 

 

 典型的なサクセスストーリーだ。くそっ、俺だって。そう思っても、現実は厳しい。

 

 

 いい女の子なんていないし、仕事は見つからない。人生どん底だ。ドラマみたいなご都合主義じゃない。上手くなんていきやしない。

 

 

「へえ、じゃあ、ドラマに来てみるか?」

 

 

 え、と思わず言葉を失って、俺はスクリーンを見た。スクリーンの中では、さっきまで笑っていた主人公が皮肉気に顔を歪めてこちらを見ていた。

 

 

 笑顔で喜んでいる仲間たちの中で、肝心の主人公だけが喜んでいない。その視線は正面を向いている。それは異様な光景に思えた。

 

 

 その目は、誰を見ているのだろうか。俺はぞっとした。その男の瞳には、その場にいないはずの、俺が写っていた。

 

 

 こちら、つまり、カメラじゃない。その目は俺自身を見つめていたのだ。スクリーンの外にいる、俺のことを。

 

 

 そんなバカな。そんなわけがない。そんなことが起こるわけがないじゃないか。それこそ、映画やドラマじゃあるまいし。

 

 

「いつもそうだ。映画だから、ドラマだから。そんな言葉でお前は、現実に生きることの尊さを見もせずに、ドラマに憧れる」

 

 

 彼はため息を吐いて、いいか、よく聞け、と俺の名を読んだ。俺の名前のキャラクターは作中にはいない。ということは、間違いなくこの男は俺に語りかけているのだ。信じられないことに。

 

 

「ドラマは筋書きがある。俺の成功は決められていたし、挫折も決められていた。そんなわかりきった未来には何もない。ただなぞるだけの作業だ」

 

 

 でもよ、お前の人生は違うだろ? これから予測できないことも起こるし、挫折も成功もあるだろう。俺の成功は決められた以上はないが、お前の成功はいくらでも可能性がある。

 

 

「だからこそ、たった今、成功したばかりの俺が、お前に成功するための秘訣を教えてやろう」

 

 

一大事にしているのは自分

 

「まず、ドラマってのは、何か。それはエンターテインメントってことだ。人に見てもらうことが目的になっている」

 

 

 だから、俺たちは全力で魅せるんだ。人生を大袈裟にリアクションすれば、受け取る側の感情はそれだけ大きくなるだろ。

 

 

「挫折の時の哀しみも、大きければ大きいほど、成功した時の感動は大きくなる。だから、俺たちは挫折した時はこの世の終わりみたいな顔をして泣くし、喜ぶときは、ほら、この通りだ」

 

 

 彼は自分の背後で両手を上げて喜ぶ仲間たちを指した。目尻に涙を浮かべて喜ぶのは、たしかに大袈裟なようにも見える。

 

 

「俺たちが感動すればするほど、人に与える感動も大きくなる。挫折もそのための材料だ。ドラマってのは、そんなもんなのさ」

 

 

 それじゃあ、現実は。現実はどうなんだ。

 

 

「お前の人生は誰かが見ているか。いいや、見ていない。お前の人生は見世物じゃないからな。お前の人生はお前だけのもんだ」

 

 

 じゃあ、どうしてそんなに大袈裟にリアクションする必要があるんだ?

 

 

「人生は思ったより平凡だ。もう生きるのが嫌になるほど辛い出来事でも、よく考えてみればそこまででもないことだってある」

 

 

 じゃあ、どうして辛くなるのか。それは、お前自身が大きくリアクションすることで、その出来事を「耐えられないほど辛い出来事」にしているからだよ。

 

 

「よく見ろ、それは本当に取り返しのつかないことか? いいや、大抵のことは取り返しがつくはずだ。ただ、お前が悲しむだけで、取り返そうとしないからそう見えるだけのことなんだ」

 

 

 お前の悩みなんてしょぼすぎて、ドラマにすらならん。俺に憧れるのはわかるが、そんなことをしても何にもならない。だから、まずはそのことを、自覚するんだな。

 

 

「ドラマに憧れたって現実は変わらねぇよ。だったら、もっと現実とまっすぐ向き合ってみろよ」

 

 

 それが彼の最後の言葉だった。気が付けば、彼は仲間たちと共にはしゃいで喜んでいた。さっきの話の後だと、どうしても大袈裟に見える。

 

 

 台本に戻ったのだろう。言うべきことは伝えた、ということだ。現実とまっすぐ向き合え。彼の言葉が、頭の中で刻まれているのを感じた。

 

 

 そのドラマのタイトルが大きく表示される。『小さなことにくよくよするな!』。彼が誰にも見えないよう、一瞬だけ、ウインクしているのが見えた。

 

 

「心配」では未来は切り開けない

 

 とくに逆境に陥った時、私たちのほとんどは日頃の癖で、つい事態をさらに悪化させるような対応をしてしまう。

 

 

 小さなことに囚われて苛立ったり悩んだりするとき、それに過剰反応すると欲求不満が高じるだけでなく、ますます泥沼にはまり込む。

 

 

 客観的に見られなくなり、否定的な考えに囚われ、力を貸してくれそうな人たちまで遠ざけてしまう。

 

 

 ひとことで言えば「すわ一大事」の生き方になってしまうのだ。ばたばた動き回って問題を解決しようとするが、実際には問題をますます複雑にしているだけだ。

 

 

 そのうちに、ひとつひとつのことが一大事だと思い込むようになり、問題とどう向き合うかが問題の素早い解決につながることを忘れてしまう。

 

 

 人生にもっと気楽に立ち向かう癖を身につければ、「なすすべもない」ような問題も何とかなりそうに感じるようになる。

 

 

 幸いなことに、もう一つの生き方がある。周りの人たちともっと共感し合える、穏やかで優雅な生き方だ。

 

 

 その生き方とは、「すぐ反応する」癖を「客観的に見る」という新しい癖と入れ替えることから始まる。

 

 

 この新しい癖を身につけることで、より豊かで満足できる人生を送れるようになるのだ。

 

 

 小さいことにくよくよしない癖を身につけると、人生は完璧にはならなくても、あるがままの現実を抵抗なく受け入れられるようになる。

 

 

 一、小さいことにくよくよするな。

 

 

 二、すべては小さなことだ。

 

 

 この考え方を人生に取り込めば、もっと穏やかで愛情ゆたかな自分を育てることができる。

 

 

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