イケメン天然黒執事とツンしゅん美少女『妖狐×僕SS』藤原ここあ


 寂しかった。ずっと、ずっと。けれど、何も上手くいかない。私はずっとひとりぼっち。今までも、これからも。

 

 

 『妖狐×僕SS』というマンガを読んだ時、私は今までになく感情移入して読んでいた。

 

 

 その理由は、主人公の凛々蝶にあったと思う。

 

 

 彼女は黒髪の美少女で、大財閥の娘。非の打ちどころもないような感じだけれど、悪癖があった。

 

 

 他人に対して、つい悪態をついてしまう。そんな悪癖。彼女はそのせいで、人間関係を苦手としていた。

 

 

 仲良くしたい。歩み寄りたい。でも、自分が近づくと、傷つけてしまう。だから、自分はひとりになった方がいい。

 

 

 彼女の理由は、私とは到底比べ物にならないくらい優しいものだったけれど、私は彼女に共感した。

 

 

 ヤマアラシのジレンマって、あるよね。相手に近づきたい。でも、近づいちゃうと、自分の棘で相手を傷つけてしまう。

 

 

 他人に対して制御できない悪態をついてしまう凛々蝶は、まさにハリネズミ。彼女は自分の棘で相手を傷つけないために、ひとりになろうとした。

 

 

 すごいよね。彼女は優しい。けれど、優しいからこそ、彼女は人間関係が上手くいっていない。皮肉だね。とんだ皮肉。

 

 

 私も昔はそんな感じだった。気がする。気がするというのは、今の私はそんな立派な考えは持っていない、ということ。

 

 

 学校という空間の中で、人間関係に上手くいかなかった生徒に待つ未来は悲惨だ。子どもたちは時に、大人よりも残酷で恐ろしい。

 

 

 私はいじめられた。そう言っておけば、私の性格が捻じれたのも、彼女のせいにできるだろうか。

 

 

 いじめを主導していたのは彼女だった。いじめは最低の行いです。それなら、どうしてその最低な彼女はいつも人に囲まれていたのだろう。

 

 

 彼女は人気者だった。美人で、かっこよくて、みんな彼女のことが好きだった。私以外は。

 

 

 足蹴にされ、水をかけられる私を、助けてくれる人はいなかった。誰もが私を見て笑っていた。

 

 

「ねえ、ほら、私たち、友だちでしょ。だからさ、ほら、わかるよね」

 

 

 そういって彼女は、私の財布から当たり前のような顔をして、母からもらった昼食を食べるためのお金を抜いていった。

 

 

 友だち。そうか、友だちか。友だちとは、こういうものなのか。その時、私は私の中で何かが歪んだような音を聞いたのだ。

 

 

 彼女みたいに、足蹴にして、水をかけて、財布からお金を抜き取る。人をバカにしたように笑って、涙を流す人の心を踏みにじった。

 

 

 それが、私が教わった「友だち作り」の方法だったから。私は寂しさに苛まれながら、人を踏みつけた。

 

 

 いつしか、罪悪感すらも感じなくなってきた。けれど、相変わらず、私はひとりぼっちのままだった。

 

 

 どうしてだろう。彼女みたいにやったのに。彼女は友だちが多かったのに。私には、友だちができない。

 

 

 私はふと、自分の足の下にいる女子に視線を移した。床に這いつくばっているのは、私が頭を踏みつけているからだ。

 

 

 制服はびしょ濡れで、身体はちょっと臭い。掃除用の水をかけたからかもしれない。

 

 

 彼女の目からは涙が零れている。その泣き顔を見て、私は、彼女が私を見下ろして笑っていた頃のことを思い出した。

 

 

 私の隣にいる取り巻きの女子がけらけらと笑う。彼女たちは、違う。友だちじゃない。

 

 

 かつて、私をいじめて、今、私の足の下にいる彼女。私が友だちになりたいのは、彼女だった。

 

 

「ねえ、私たち、友だちだよね?」

 

 

 彼女の髪を掴んで顔を上げさせて聞くと、彼女はぐしょぐしょになった顔を恐怖に染め上げた。

 

 

 その表情を見て、私はふと、疑問に思う。私は果たして、本当に彼女のこんな顔が見たかったのだろうか、と。

 

 

 ヤマアラシのジレンマは乗り越えた。近づいてきたのは彼女からで、私と彼女は互いの棘で互いの身体を突き刺した。

 

 

 傷つけたくない。それは私の本心のはずだった。今でもそれは変わっていない。でも、傷つけ合わなければ、私たちは近づけない。相手に触れることすらできない。

 

 

 人間関係は難しい。マニュアルが欲しいな。

 

 

妖館の住人

 

 僕には悪癖がある。幼い頃からのもので、自分では制御できない。無駄に虚勢を張って悪態をついてしまう。これが僕の悪癖。

 

 

 大財閥の旧家の娘、白鬼院凛々蝶は、「妖館」に入居した。彼女はひとりでいると決めた。家を出たのはそのためだった。

 

 

 しかし、その思惑は早くも崩れ去ることとなる。

 

 

「本日から凛々蝶さまの生活の安全をサポートさせていただきます。御狐神双̪̪̪熾と申します」

 

 

 「妖館」は通称である。正式名はメゾン・ド・章樫。一世帯につきひとりのシークレットサービスがつく、最強のセキュリティーを誇る最高級マンション。

 

 

 ここは厳しい審査をクリアした選ばれた人間しか入れない。その内容は高額な家賃を払う、能力、家柄、経歴、というのが表向きの条件。

 

 

 凛々蝶自身はひとりのなることが目的だったため、マンションにこだわりがあるわけではなく、シークレットサービスも断っていた。はずだが、どうやら手違いがあったらしい。

 

 

 しかし、妖館には、ある噂があった。それは――。

 

 

 シークレットサービス付きのセレブマンション? え、あそこって変人ばかりの館じゃないの?

 

 

 うそ、お化け屋敷って訊いたけど?

 

 

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