「絶望した!」
なんて、思わず叫んだしまったのは、私が今まで愛読していた漫画がとうとう終わってしまったからである。
『さよなら絶望先生』というその作品が私は大好きで、漫画も買っていたし、アニメも繰り返し見ていた。
しかし、漫画を買うこと自体が少なくなるにつれて、次第にその作品からも距離を置くようになっていたのだ。
それを、先日、大学の同期から思いがけず聞いてしまったのだ。
「この『さよなら絶望先生』っていう漫画、おもしろいよ。もう最終回が随分前に出たんだけどねぇ」
そのことを知った時の私の衝撃は計り知れないほどであった。すぐに書店に駆け込んで最終回までの続きの巻をまとめて買い漁ったほどである。
思わず涙した。距離を置いていたことを後悔した。私の青春を彩ってくれた大好きな作品だったのに、私はその最後をともに過ごすことすらできなかったのだから。
『さよなら絶望先生』はややレトロな色調の学園コメディ漫画である。漫画の表紙の感触が心地よい。
しかし、その内容は、時事問題を遠慮なく取り上げ、ブラックジョークを織り交ぜている現代風刺的の香る社会派の作品である。
当時、社会を斜に構えて見ていた私にとって、先生の決め台詞である「絶望した!」はまさに現代の社会に振り回された若者の悲鳴であるようにも感じたのだ。
私と同じ目で社会を見ている人間がここにもいる。そのことが孤独な青年にとってどれだけの支えになったことか。
キャラクターは誰も彼もが問題を抱えた曲者ばかりで、それが私のようなものでも居場所を与えられているように感じていたのだ。
一話完結型のギャグ漫画が、よもや終わるとは思っていなかった。しかし、それは現実問題として終わってしまったのだ。それも、衝撃的な形で。
買ったばかりの漫画の続きを脇目も振らず一夜を徹して読み耽り、朝日が明るく顔を出した頃、ようやく最終話を読み終わった私は読後感と疲労に身を任せていた。
衝撃であった。あまりにも突然のように現れた最終回。しかし、今にして思えば、それまでの一巻からの軌跡すべてが伏線のようにも見える。
私の脳裏によぎるのは、何巻だったか忘れてしまったが、『さよなら絶望先生』のどこかで出てきた一幕である。
最終回を迎える漫画は、唐突な新展開や新たな設定がされるという。その時は繰り出されるギャグのひとつで、現れた魔法少女らしきイキモノを追い出している。
しかし、最終回を目の当たりにした私は改めて思うのだ。唐突な新展開。新たな設定。まさしく、この漫画の最終回そのものではないか。
これまで時事や社会問題を風刺的にブラックジョークで笑いに変えてきた『さよなら絶望先生』。
しかし、そもそもこの漫画こそが、遠大なブラックジョークそのもの、これまでの巻すべてを内包したひとつのギャグなのではないか、と。
終わってしまったという寂寥感はある。しかし、どこかにたしかな満足感があった。それまでの誰にも気づかれない密かな伏線は回収され尽くし、『さよなら絶望先生』というひとつのギャグとして。
その時の私の心持たるや、さながら卒業式を迎えた後のようである。いや、まさしく私は卒業した。そう胸を張って言える。私はようやく『さよなら絶望先生』を卒業したのだ。
さよなら、絶望先生。私は目を閉じた。今日が平日で、朝から講義が入っていることなど忘れて、私は幸せな青春の夢の中へと落ちていった。
最初のページから全ては始まっていた
恋が始まるには、ほんの少しの希望があれば十分です。春――卯月、私の心は希望に満ち溢れていました。
桜の花の咲き乱れる通学路で、私が出会ったのは、桜の樹に縄をかけて、ぶら下がった袴姿の男性でした。
青ざめた少女は男の足を掴み、引っ張って男を降ろそうとした。男が苦しみに足をばたつかせて悶えていると、縄が切れて二人ともその場に倒れ込んだ。
「死んだらどーする!」
男が叫ぶ。一瞬の静寂。男が取り繕うかのように、自分は生きていても何の価値もない人間だと言った。しかし、少女は聞いていなかった。
「こんな素晴らしい春の日に、自ら命を絶とうなんて人、いるわけありません」
世の中は希望に満ち溢れています。そう言う少女の傍らで、男は金汚い世の中に絶望する。
少女いわく、男は命を絶とうとしていたのではなく、身長を伸ばそうとしていた、と。あまりに前向きな解釈に、男は言葉を失った。
物事をなんでもネガティブにしかとれない男。物事をなんでもポジティブにしかとれない少女。出会ってはいけない二人が出会ってしまった。
男は涙を流して逃げるように走り去っていく。少女は、おかしな人、とだけ呟いて、学校に向かった。
男と少女の再会は、彼らが思うよりも早く訪れる。少女の教室に、担任として入ってきたのは、男だったのだ。
糸色望。それが、男の名前。横書きにすると、「絶望」と読める。少女から「絶望先生」と呼ばれた男は泣いて教室から駆け出していき、その日一日、帰ってこなかった。
以来、先生の名前を横に書く時は、みんな十分に離して書くようになったという。
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