仕事ができる人はよく遊ぶ『頭を遊ばせる技術』日下公人


「お前、堅苦しすぎだぞ。少しは肩の力抜け」

 

 

 上司からそう言われて、私は首を傾げた。肩の力を抜けと言われても、どうすればいいかわからなかったからだ。

 

 

 いつものように同僚からの誘いを断る。翌日も仕事があるのに、遊びに行くなんて冗談ではない。寝坊する可能性を少しでも減らしたかった。

 

 

「真面目なやつだなぁ、相変わらず」

 

 

 同僚は呆れたような口調で言う。私は表情には出さなかったが、彼からの評価を誇りに思った。

 

 

 昔から、勉強も人付き合いも誠実にこなしてきた。ゲームなんてしないし、遅刻もさぼりもしない。

 

 

 親からも教師からも評価が高く、いつも褒められていた。「真面目」という言葉は、私の根幹をなす言葉だったのだ。

 

 

 だからこそ、なぜ上司からそう言われるのか、私にはわからなかった。仕事にも真面目に取り組んでいる。それが悪いことのはずがないじゃないか。

 

 

「おい、今日の晩だが、空いているか?」

 

 

「もちろんっすよぉ。ご一緒させてもらいます」

 

 

 私は密やかに、同僚に対して憎々しい視線を向けた。自分が彼に嫉妬を抱いていることは自覚している。だが、それでも止めることはできなかった。

 

 

 同僚は軽い性格で、仕事終わりにもよく夜の街に遊びに出かけているらしい。私は出会った当初から、彼のことは「不真面目な奴」だとしていた。

 

 

 しかし、それだけ遊んでいるにもかかわらず、彼の営業成績は私よりも良い。しかも、上司の信頼も厚かった。そのことが、私の劣等感をことごとく刺激していた。

 

 

 なぜだ。私の方が遊びもせず、真面目に仕事に向き合っているはずだ。それなのに、どうしてあいつの方が優秀な成績で、上司からも認められているのか。

 

 

 その鬱憤を晴らすべく、ますます私は仕事に打ち込んだ。しかし、営業成績は大きく伸びるわけでもなく、むしろ小さなミスが出てくるようになっていった。

 

 

 どうして。どうして。ミスをした私を、あいつが陰で笑っている。なぜだ。私は真面目なんだ。それなのにどうして、不真面目なお前がそんなに好かれているんだ。

 

 

 魘されて、目を覚ます。寝汗をじっとりとかいていた。時計を見て、私は思わず目を剥く。現実は夢よりも残酷だ。私の人生で初めての遅刻だった。

 

 

 上司から怒られて、私は身を縮めるばかりだった。自責の念が私の胸を埋めている。上司の怒声が、何倍にもなって私の肩にのしかかった。

 

 

 その日の仕事を暗澹とした気持ちで終わらせた頃、上司から呼び出される。また何かしたのだろうか。また怒られるのだろうか。

 

 

「お前、これを読め。貸してやる」

 

 

 そう言って上司は私に、一冊の本を手渡した。『頭を遊ばせる技術』と書かれている。

 

 

「肩の力を抜けと言っただろう。お前には、”遊び”が足りないんだよ。それを読んで学べ」

 

 

 家に帰った私は、そんな上司の言葉を思い出す。”遊び”が足りないとは、どういうことか。遊びなんて仕事にはむしろ邪魔なものだろう。あってはならないもののはずだ。

 

 

 とはいえ、言われたのなら、これも仕事の一環だと捉えることにした。読んで、感想を伝えなければならないのだろう。私はその本のページをめくる。

 

 

 読み始めてすぐ、その本には私の意見とは正反対のことが書かれていることに気が付いた。途端に、読むのが苦痛になる。お前が間違っているのだと突き付けられた気になるからだ。

 

 

 しかし、上司から言われた言葉が、私の胸に残っていた。だからこそ、読み進める。すると、あるひとつの言葉が、私の心を突いた。

 

 

「よく遊ぶ人は、よく仕事をする」

 

 

 思い出すのは、同僚の顔だった。不真面目で、夜ごとに上司からの誘いに乗って遊びに出かけている。だが、上司からの信頼は厚く、仕事の成績も良い。

 

 

 それは彼が優秀だからだろうと思っていた。だが、果たしてそうだろうか。その本を読んだ私には、今まで感じていたことに疑問を覚える。

 

 

「なあ、今日の夜は空いてるか」

 

 

 いつものように、彼からの誘いが来る。私は彼に反発し、拒むことしかしなかった。だが、今はむしろ、彼から学びたいと思っている。

 

 

 了承の意を込めて頷くと、彼は驚いたような表情を浮かべ、そして嬉しそうに笑って私の肩をぽんと叩いた。私は照れくささから、思わず下を向いた。悪くない気分だった。

 

 

遊びこそが仕事の原動力

 

 ”遊び”と聞くと、日本人はすぐに、「休んでいる」とか、「役に立っていない」とか、「時間を無駄にしている」とかのイメージを思い浮かべる。

 

 

 しかし、遊ぶとは、「未来を先取りしている」人に対して、旧慣墨守型の人がつけた呼び名という見方もできる。

 

 

 毎日の生活では、”遊び”があるからこそ、心に余裕が生まれると言える。生活の中の”遊び”は、人間の幅や仕事の幅を広げてくれる。実際、仕事をバリバリこなす経営者は、実によく遊んでいる。

 

 

 これまでの日本人の生活は、「衣・食・住」の”モノ”が中心だった。これからは、「遊」という”ゆとり”をプラスすることが必要となってくる。

 

 

 言い換えれば、遊びの中から未来が生まれるといってもいいし、遊ばないと未来は生まれないといってもいい。

 

 

 ソフト化経済の時代には、頭のソフト化が要求される。そのためには、スポーツやゲームなどで、日ごろから人間全体をソフトにしておく必要がある。

 

 

 そうした世界を持つことと、先端的な仕事で成功することは、実は表裏一体のものなのである。

 

 

 こうしてみると、これからの”遊び”は、従来の日本語の「遊び」ではなく、英語の「プレイ」の意味に近くなっていることがわかる。

 

 

 それはある意味では、仕事と遊びの区別がなくなったということでもある。”よく仕事する人は、よく遊ぶ”のではなく、”よく遊ぶ人は、よく仕事をする”のである。

 

 

 あなたも、ますます上手に頭を遊ばせて、あなたの仕事と人生を充実させていただきたい。

 

 

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