ああ、終わったのだ。あの頃の私は、ただ茫然と空を見上げていたように思う。あの瞬間、長かった戦いは終わった。私たちは負けたのだ。
歴史は勝者によってつくられる。それは、人間が戦争を覚えた頃から続く当然の結果のようなものだ。
戦時中の日本は、現代の歴史において「悪役」として描かれる。侵略欲に駆られ、無謀な戦いに身を投じた末に、当然の結末を迎えた愚かな国家である、と。
いわゆる、黒歴史、というところなのかもしれない。戦争そのものが批判されている現代、国民が一丸となって戦争に熱狂していた当時は、まさしく狂気のように扱われる。
しかし、当時を生きたひとりとしては、どうにもそれが哀しくなるのだ。いくら敗北しようとも、あの時代は間違いなく日本が世界に名を轟かせた時代だった。
大東亜の戦いは最初から勝ち目のない戦争だった。そういう意見がある。しかし、私からしてみれば、勝機はあった。
日露戦争も、日清戦争も、真珠湾も。日本があれほどまでに奮戦し、あまつさえ勝利を収めるとは誰ひとりとして信じていなかった。
大東亜の敗北は日本軍の組織的な欠陥と兵站や情報戦の軽視が要因だったと言われている。
しかし、どの歴史を見ても、多くの厳しい視線を受ける現代においても、否定のしようがないひとつの事実がある。
それは、日本の兵隊は、間違いなく強かったのだ。それこそ、指揮系統の未熟さ、物資や人材の不足を補って余りあるほどに。
『空の神兵と呼ばれた男たち』という本がある。大東亜戦争が起きた理由について追及し、珍しくも戦時中の日本を肯定的に見る一冊である。
作中には、当時、落下傘部隊の小隊長であった奥本中尉の、当時の状況を事細かに記した手記が載せられている。
彼らはほぼ孤立した物資もない状態で、屈強な装備を誇る敵を殲滅し、作戦を成功させた。
その結果からも、日本兵がいかに強かったかということがわかるだろう。ほとんど不眠不休で、仲間のために進軍し続けたのだ。
たしかに、日本は負けた。しかし、国のために戦った兵士たちの想いまでも否定するのは筋違いだろうと思う。私たちは、当時、国を守りたい一心だったのだ。
そもそもの始まりは欧米が植民地を得るために侵略を仕掛けたことだった。列強諸国の植民地支配はあまりにも残酷で、それは国が滅ぼされることと同じだった。
大切な家族も、支配者たちによって凄惨な目に遭うだろう。当時はそんなことが当たり前に行われていた世界だったのだ。
今でも、時々あの頃に思いを馳せることがある。私たちは、どうするのが正解だったのだろう。
戦争そのものが「悪」とされる現代と比べて、当時からしてみれば、戦争は一種の「ビジネス」であり、常識だった。
狂っていたのは日本だけじゃない。世界そのものが狂っていた。現代の常識とは何もかもが違っていたのだ。
『空の神兵と呼ばれた男たち』では、日本は列強に支配されていたアジア諸国を救うヒーローであるかのように描かれている。
しかし、そうじゃない。あの時代に正義はいなかった。時代が狂っていたのだから。正解なんて、どこにもなかった。想いはどうであれ、何を選んでも間違いだったのだ。
しかし、だからこそ、私たちはあの時代を否定してはいけない。歴史の汚点だとして目を反らしていては、あの頃と同じだ。
強かった日本の誇りも、敗北した結果も、清濁すべてから目をそらさずに向き合わなければならない。そこには、肯定すべきところも、否定すべきところもある。
今は良い時代になった。だからこそ、もう二度と空の神兵を舞い降りさせてはならない。
日本が戦わなければならなかった理由
今も、日本人の生活は、海外からの資源によって成り立っている。その資源の供給が絶たれれば、日本国民は困窮する。
大東亜戦争で、日本は無謀の侵略戦争をしたのではない。日本は、開戦ぎりぎりまで和平を求めていた。
しかしアメリカは、何としても日本に戦争を起こさせたかった。日本に対する経済封鎖、禁輸措置は、事実上の宣戦布告だった。
それは、不当の挑発に基因した、国家存立のための自衛戦争であったのである。愛する家族の命と生活を守るために、日本は大東亜戦争の戦端を開いたのだった。
その緒戦で、石油を確保するために、決死のパラシュート降下作戦を実行したのが「空の神兵」だった。
奥本實中尉は、パレンバンでのパラシュート降下作戦の隊長として、見事な戦果を挙げられた。私が驚いたのは、昭和天皇に、奥本中尉がたったひとりで拝謁をしている事実だった。
少尉、中尉は、戦闘の最前線の指揮官である。昭和天皇が、小隊長にあたる奥本中尉に、単独拝謁を許されたことに、驚きを覚えた。
奥本中尉は大正9年10月7日生まれ。パレンバンで降下作戦を決行した年は、満21歳だった。
昭和天皇に拝謁をしたのは、奥本中尉が満22歳の頃。現役の中尉として、戦時中に陛下の拝謁を賜った。
石油は、臣民の生活にも、自衛の戦争を戦うにも、生命線だった。陛下も、さぞ、奥本中尉の偉業を、お喜びになられたことだろう。
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