AIが人間に対して反逆する、といった趣旨の映画を見て、かつての私は震え上がった。そんな事態になっては大変だと、AI関連の本を読み漁ったのも、今ではいい思い出だ。『AIの壁』もまた、その中の一冊である。
AIの発展によって、世の中はとても便利になった。新型コロナウイルスの流行によって、ますます人と人とのコミュニケーションはバーチャルの上で行われている。いずれは、『サマーウォーズ』みたいな世界にもなっていくかもしれない。
とはいえ、AIの発展を危険視している人もいる。養老孟司先生もそのひとりである。『AIの壁』は、先生が何人かの専門家たちとAIをテーマに対談した内容をまとめた一冊だ。
私が中でも読み耽ったのは、『AI vs 教科書の読めない子どもたち』を書いた新井紀子先生との対談だった。AIの長所と短所を明確に分析しているその本は、読んでいて大いに学ぶことが多かった本のひとつである。
「わからないことを面白がる」というのは、養老先生が他の著作でも度々言っていることだ。そもそも、人間は、「わかる」ということ自体できていると思い込んでいるだけで、できていないのだ、と。
AIは私たちの生活を大いに助け、時には未来の予測などもする。天気予報や災害予測なども、そのAI技術の発展によって生まれた人類の英知のひとつだろう。
けれど、ここ数年、そんな発展を嘲笑うかのように、現実は予想もできない方向へころがっているのを肌に感じる。最近は特に。
思えば、新型コロナウイルスの流行がまさにそれだった。今まではあまり見かけなかったマスクが今では当たり前になり、自宅にいながら仕事をするリモートワークも珍しくはなくなるほど、社会は大きな変貌を遂げた。
養老先生も言っているように、まったく予想にもできなかった未来だろう。おかげで、元々予定されていたオリンピックには多大な支障が生じている。日本での開催が決まった頃の明るい顔をした彼らは今、どんな表情をしているのだろうか。
つい何年か前に起こった豪雨災害や、ここ最近多発しているゲリラ豪雨もそうだ。今や天気予報は大して当てにならない。急にバケツをひっくり返したような雨が降り、かと思えばすぐに止む。本当に変な天気が連続している。
こんな自然の影響に振り回されている現状を見ると、私たちが生み出して万能だと信じているAIが、その実、如何に自然に対して無力かを身を以て教えられているようにも思うのだ。
「AIは突き詰めればただの計算機」なのだと、新井先生の本で読んだことがある。つまり、AIはあくまでもこれまでの歴史とデータによる予測しかできないのだ。
しかし、自然は当然、常に変わり続けている。私たちが子どもの頃の気候とは、大きく変わってしまった。最近立て続けに起こる社会の変化は、AIの限界を示しているようにも思える。
「脳化社会になっていく」と、養老先生は著作の中で予測していた。私もその通りだと思う。脳化とは、つまりはよりヴァーチャルになっていくということだ。
事実、社会はすでにその片鱗を見せている。リモートワークになり、コロナウイルスの影響でますます人同士の接触は少なくなるだろう。コロナ禍を抜け出しても、ウェブ会議やリモートワークはある程度形を残すのではないだろうか。
AIに対して、人間はもう、過度な信頼を置いてしまっている。その危険性や不安定さに警告を発している人こそいても、技術への過信は押し止めることができないだろう。怖くても便利だから使う。結局、私たちは今までもそうしてきたのだ。
次の時代を担っていくのは、子どもの頃からスマホに親しんできた人たちだ。彼らの考え方は、スマホやネットがなかった時代の人たちとは大きく異なっている。
しかし一方で、映画や小説は、AI社会の脆弱性をずっと昔から訴え続けてきた。あのSFの世界は、今やまったくの架空の物語ではないかもしれない。
だからこそ、私たちはただただAIの利便性だけを見るのではなく、それらとの付き合い方を今一度見直してみないといけないのだろう。
AIとヒト
本書に収められた対談は、二〇二〇年に世界中で感染者を出し、現在も収束が見えない新型コロナウイルスの大流行以前になされたものである。
AIについては、とくに情報技術の面でコロナ禍以降、社会的に大きな変化が生じた。ウェブ会議やリモート・ワークなど、それほど普及していなかった手段がむしろ日常化し、具体的な面で仕事のやり方が大きく変化することになった。
この対談開始時には、まさかこういう変化が起ころうとは夢にも思っていなかった。世の中、なにが起こるかわからない。
全体の背景にある私の思いとしては、一方では極めて安易に「これからはAIだ」となってしまう雰囲気があることを警戒している。
とくに中国や韓国で行われたことは、当然日本もやらなければならないという雰囲気が目立つように思う。
自分自身の必然性から出ていないことをする癖がこの国の社会にあることを心配する。本当に自分に必要なものは何か、それを考えるのが大切だと思う。
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