大人って、いったい何だろう。疑問に思った僕は、その答えを求めて、一冊の本を手に取った。
伊集院静先生の、『大人の流儀』。なんとなく今までにタイトルだけは聞いたことがあったけれど、読むのは初めてだった。
それは伊集院先生のエッセイのようなもので、先生の生活を通して、大人というもの、あるいは若さというものへの哲学や持論を綴ったものであるらしい。
読んでいて「かっこいいなあ」と思わせられるようなこともある。けれど、僕はすぐに、その本では僕の求めていた答えは得られないということに気が付いた。
この本に書かれているような「大人」を、僕はひとりも知らない。つまり、『大人の流儀』を守れている大人なんて、ちっともいないのだということ。
そもそも、僕がどうして大人のことを知ろうと思ったのか。それは、僕が「大人」のことを嫌っていたからだ。
大学を卒業して、就職もした。もう子どもだとは見られない。世間的に見たら、僕はもう、立派な大人だ。
だけど、そんな自分すらも、たまらなく嫌だった。そう思うってこと自体、きっと僕はまだ、「大人」になりきれていないのだろう。
『大人の流儀』では、最初の章に「叱ることについて」の項目がある。
今の世の中は叱ることができない世の中になっている。ふとすれば、パワハラだなんだと訴えられる。
伊集院先生は、嫌われようが、どうされようが、叱るべきことは叱らなければならないという考えらしい。
社会は理不尽なものだ。明らかに黒いものを、白だと言わなければならない時がある。
「叱る」ということは、若者に、それまで暮らしてきた学校や家とは違うということを、教えるためのものだ、と。
社会は理不尽なのだということを、その身をもって教えるのが、叱ることなのだ、と。伊集院先生はそう書いていた。
けれど、僕はそこに疑問を覚える。別に叱られても、パワハラだなんだと騒ぎ立てるつもりなんてちっともないのだけれど。
黒いものは、どうやったって黒いのだ。白くなんてならない。それを白だというのなら、その上司が間違っている。
どうして社会が理不尽なのか。それは、その間違いをこれまで誰も正さないまま放っておかれてきた先人たちの怠慢の結果なんじゃないのだろうか。
もしも黒いものを黒だと正直に答えてツライ目に遭うのなら、僕はいっそ、そんな社会からは自分から出ていきたい、とすら思う。
それで生きられないならもう、それでもいいじゃないか。そんな社会に、僕が生きる価値なんてない。
あるいは、こう考えるのもまた、僕がまだまだ子どもだということになるというのだろうか。
社会の理不尽への抵抗を諦めて、黒いものを白だと答えた時、きっと人は大人になるのだろう。それが僕にとっての「大人」だ。
だったら、僕はもう、大人になんてなりたくない。ずっと子どものままでいい。そう思ってしまう僕はきっと、社会人としては失格なのだろうね。
本当の大人とは?
まもなくどこの職場でも、新しい人を迎える。ほとんどの人が社会を初めて経験することになる。彼らを見て、自分たちの何年か前、遠い春を思い出す人は多いだろう。
彼らが、職場の未来を担っているのは事実だ。その成長を期待し、見守ってやるのはすべての人の気持ちだろう。
だが彼らはまだ何も知らないし、何もできない。何も知らないということを知らないし、何もできないということも知らないのである。そうなのだが主張はしてくる。
生意気なのもいる。その時、ガツンと言うべきか?
パワーハラスメントなる言葉があったりして、言い方にも注意が必要だという。この頃は、さまざまな理由で職場の中で怒る人が少なくなっている。
”それは断じて違う”
言い方に気を配ることなどさらさら必要ありません。あなたの言葉で、ダメなものはダメだと言いなさい。
社会というものは、学校とも、家庭とも、まるで違う場所であることを教えなさい。それで新人が、「そんな理不尽な……」と思うなら、それで結構だと、私は考えている。
私は、人が社会を知る上でのいくつかの条件のひとつは、”理不尽がまかりとおるのが世の中だ”ということを早いうちに身体に叩きこむことだと思っている。
その時、なったものは受け入れるか、こちらも改革し、すぐに対処できるかどうかは、その人たちが理不尽を知っていたかが決め手になる。
だから諸君、煙たがられたり、嫌われることを怖れてはいけない。言うべきことをあなたの言葉で言いなさい。それが新人に必要なことだ。
どやしつけてくれた先輩が、いかに正しいことをしてくれたかは後年になってわかるものだ。
なぜ、叱ることが必要なのか。それは今の新しい人の大半が、本気で叱られた経験を持たないからである。
なぜ、叱ると身につくか。叱られた時は誰も辛いからである。辛いものは心身にこたえるし、よく効くのだ。
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