ある時のことである。友人と二人、学校から家に帰る途中、外国人の男性に話しかけられた。
彼は、きっと道に迷っていたのだろう。困り果てた様子で何やら言っているのはわかった。
だが、困り果てたのは僕と友だちも同じだ。彼が何を言いたいのか、僕にはさっぱりわからなかったのだ。
「ああ、それなら、あっちですよ」
突然、友だちがしれっと答える。外国人の彼は「Thank you」と言って、慌てた様子でこの場を去っていった。
僕が友だちを尊敬の目で見ても仕方がないだろう。しかし、聞いてみれば、なんと彼はわかったわけではないのだという。
「わかるわけないじゃん。適当だよ、適当」
外国人の彼が何を言っているかわからず、相手をするのが面倒になった友だちは、当てずっぽうで答えたのだ。
それを聞いて、僕は外国人の彼に申し訳なくなった。彼にとっては日本は外国なのだ。そんなところで迷うなんて、きっと不安だったろう。
そんな彼に、僕はちゃんとした答えを与えてあげることができなかった。僕が英語を学んでいれば、彼に道を示してあげることもできたはずなのに。
その悔しさ、その罪悪感が、僕がもう一度ちゃんと英語を学ぼうという原動力になったのだった。
『中学レベルの英単語でネイティブとサクサク話せる本』。そのいかにもなタイトルの本は、ニック・ウィリアムソンという先生が書いたらしい。
ページを開いてみれば、なるほど、たしかに簡単で、どこかで見たような英単語ばかりだ。決して難しいわけじゃない。
けれど、僕の芯に染みついた英語への忌避感が、その簡単なはずの文章を難しいものに見せている。
読むだけじゃわからない。会話できるようにするのだから、相手がいないと話にもならない。
その本には、なんとCDがついていた。英会話を練習するための。CDを再生しながら、僕はその本を読んで、時には口に出すことで英会話を練習し始めた。
そもそも、僕は英語が大の苦手である。国語の点数には自信があるけれど、数学と英語はいつだって散々な結果になっていた。
先生からは、「英語がもう少し高ければ、もっといい大学が狙える」と言われていた。けれど、それでも英語を勉強する気にはならなかった。
そんな僕が、今、こうして英語を学ぼうとしているのが不思議に思える。どうしてだろう。
思い出したのだ。そもそも、僕たちはテストのための勉強をするわけじゃない。学んだことを日常で役立てるために、勉強をしているのだ。
僕たちはテストの前日には必死に教科書をめくって覚え直して、テストの時には身構えてどんな問題が来るのかと慄きながらテスト用紙を眺める。良い点数を取らなければ、と。
僕にとって、ずっとテストが本番だった。けれど、そうじゃない。テストなんて、本番どころか、大切でもなんでもない。
帰り道で突然、外国人に話しかけられること。日常の中でさりげなく起こるそのことこそが、学んだことを本当の意味で試される「本番」だ。
英語の授業とはまったく違う、彼の口にする英語は、生きていた。教えるための英語ではなく、会話として使われている、本物の英語だ。彼のそれは、日常として染みついているのだ。
曲がりなりにも英語を勉強していて、授業で英会話も聞いているのに、彼の言葉はまったくわからなかった。僕は「本番」をうまくできなかったのだ。
一度だけ、僕は海外に行ったことがある。周りから聞こえる言葉はもちろん日本語じゃなくて、途方もない不安に襲われた。
言葉すらも覚束ないところにいることほど、怖いことはない。それは、日本に来る外国人たちだって同じはずなのだ。彼らにとっては日本が外国なのだから。
日本語は難しいと、よく言われている。世界の共通語は英語とされているのに、日本では英語が通じない。
そんなところで道に迷ったら、不安に決まっている。そうして縋りついた人たちに、言葉がわからないからと言って嘘を教えられたら、どう思うだろう。
僕には夢ができた。もし、また外国人に道を聞かれた時、英語でしっかりと答えて、導いてあげることだ。そのために、僕は次のページをめくる。
言葉の壁を越えて
グローバル化やインターネットの普及がどんどん進む現代の世界では、人と人との間にある壁は、「国境」ではなくて「言語」です。
しかし、それには、「言葉」そのものだけではなく、コミュニケーション能力である「会話力」も必要です。
会話の場面では、文を組み立てている余裕はありません。できるだけ「考えずに話す」ことが求められます。
本書では、非常に効果的な「考えずに反射的に英語を英語で返す」ドリルを採用しています。このドリル練習を行うことで、「反射的に英語を英語で返す」テクニックが身につきます。
また、会話というと、実際にはその大半はお互いの過去の体験談や最近の出来事を話し合ったりすることで成り立っています。これも大切なコミュニケーションです。
本書で紹介している「体験談を語る流れ」をテンプレートにして話してみると案外簡単にできることがおわかりいただけるでしょう。
さらに、人の話を聞いた時に、「会話力」につながる大切な3つのスキル「質問をする」「感想を言う」「関連話につなぐ」についても学びます。
本書で紹介しているスキルを身につけておくと、会話を気まずい雰囲気で終わらせずに、話をどんどん盛り上げ、真のコミュニケーションをとることができます。
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