あらゆる物事には必ず原因がある。原因があるからこそ結果が生まれる。多くの人はそのことを知っていて、その真実に基づいて行動する。だが、そこに落とし穴があることに気付いている人は少ない。
その落とし穴とは、「果たしてその原因と結果は本当につながっているのか」ということだ。僅かなボタンの掛け違いで、まったく見当外れの方にも行くことになるのだから恐ろしい。
幼い頃、「ゲームをすると馬鹿になる」と、よく言われた。しかし、私は無類のゲーム好きで、結局親に隠れてゲームをやり続けていた。
今になって振り返り、私が馬鹿かと問われたならば、まあ馬鹿である。しかし、それがゲームのせいなのかはわからない。元から馬鹿だったかもしれないし、頭を強く打った四歳児の頃に馬鹿になったかもしれないのである。
そう考えれば、世に言う「風が吹けば桶屋が儲かる」という理論が、どれほど頼りないものに変わるか。風が吹いても桶屋は貧乏なままだ。両者に因果はないのである。
しかし、多くの人は因果を固く信じている。風が吹けば桶屋が儲かると思っているし、ゲームを辞めさせられれば成績が上がる、と、信奉している。
事実、私も少し前まではそちらの立場だった。テレビで見かける通説は、どんなにくだらないもの、信じられないものであっても挑戦していた。
だが、私のそんな都合のいい幻想は、一冊の本によって打ち砕かれた。『「原因と結果」の経済学』である。その本では、通説と言われていることがいくつも切り捨てられていく。その様は、壮観ですらあった。
二つの物事の間には、「因果関係」、あるいは、「相関関係」がある。作中で紹介されているほとんどは、「相関関係」の方だ。
特に気をつけなければならないのは、「原因」と「結果」。それらが絡み合っているかどうか。その一点に尽きる。
一見すれば同じような動きをしていたとしても、それが理由で「原因」と「結果」にはならない。だが、無関係なそれらを結び付けようとするから、真実が見えなくなってしまうのだ。
この本を読んで、伊坂幸太郎先生の『SOSの猿』という作品を思い出した。伏線をきっちり回収して爽快感溢れる作風で人気の伊坂先生の作品の中でも、風変わりな作品だとされている。
その作品では、因果関係がひとつのテーマだった。会社でひとりの社員が大きなミスをした。ならば、そのミスの原因は何か。元を辿っていくと、思わぬところでつながっていることだってある。
世の中の物事はしばしば、「原因」と「結果」がすり替えられている。ただの相関関係であることを、あたかも因果関係にあるかのように見せかけている。そして逆に、因果関係にあるものを、まったく関係がないものであるかのように見せる。
社会というのは嘘つきだ。だからこそ、因果関係であるかどうかを考えることが必要になってくるのだ。この嘘つきな社会に騙されないようにするために。
この本の表題にある、「データから真実を見抜く思考法」を実践することで、誰もが自分に都合よく改変している嘘に気が付くことになるだろう。
彼らの虚構を見透かすことで、初めて本当の世界の姿が見えてくる。今まで見てきた世界が、まったく違ったものになるのだ。もちろん、それもまた、一面でしかないけれど。
いろんな考え方でひとつの物事を見ること。結局のところ、それが一番大切なのだろうと思う。一方から見えなかったものが、別の方向から見えることだってあるのだ。
そこに因果はあるか?
メタボ健診を受けていれば長生きできるのか。テレビを見せると子どもの学力は下がるのか。偏差値の高い大学へ行けば収入は上がるのか。
多くの人がこれらの問いにイエスと答えてしまうのは「因果関係」と「相関関係」を混同しているからである。疑いもなく肯定した人は、ぜひ本書を読んでほしい。因果関係と相関関係を混同してしまうと、誤った判断のもとになってしまう。
因果関係が存在しないことの何が問題なのか、と思う人もいるだろう。しかし、私たちが何か行動を起こすときには、けっこうなお金や時間がかかることが多いということを忘れてはならない。
因果関係があるように見えるが、実はそうではない通説を信じて行動してしまうと、期待したような効果が得られないだけではなく、お金や時間まで無駄にしてしまう。
本当に因果関係が存在するのか。因果関係なのか相関関係なのかを正しく見分けるための方法論を「因果推論」と呼ぶ。
日常生活の中でも、因果関係と相関関係の違いを理解し、「本当に因果関係があるか」を考えるトレーニングをしておけば、思い込みや根拠のない通説にとらわれることなく、正しい判断ができるだろう。
このため本書は、因果推論の根底にある考え方を徹底的にわかりやすく説明するために執筆された。因果関係がはっきりしない、根拠のない通説が山のようにあるのが、教育と医療の分野だ。
本書では、私たちの生活に欠かすことのできない教育と医療を事例にして、読者の皆さんが因果推論の基本的な考え方を身につけられるよう力を尽くした。
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