この世は金が全てだ。そのことを、今、俺ははっきりと自覚した。だからこそ、こんな状況になっている。借金は膨れ上がって、今や額すら覚えていない。どうしてこうなったのか。俺は何を間違ったのだろう。
きっかけは、そう、ほんの少しの善意だったのだ。以前の俺は、それなりの企業に就職し、それなりのお金を稼ぐ、あくまでも普通の、人並みな生活を送っていた。
お金の苦心を相談してきた後輩の言葉を、今ならば断わるだろう。だが、当時の俺は底なしのお人好しで、自分を慕う後輩を救うために、自分の金を差し出した。それが全ての、始まりだった。
後輩は姿を消し、俺の元には、膨大な借金だけが残った。俺の善意は、革靴の靴底に踏みつけられて跡すら残らなかった。
借金を抱えた俺は絶望したが、それでもまだ、希望を捨てなかった。仕事を失くしたわけじゃない。稼げばいいのだ。簡単なこと。そう思っていた。俺は出勤日を増やし、毎日のように残業をした。
しかし、金を稼ぐ早さよりも、借金が膨れ上がる速度の方が早かった。いろんなところから借りた金が、それぞれの利息でかさ増しされたのだ。家には、荒々しいノックの音とドスの効いた声がよく響くようになった。
そして今、俺は家に帰ることもできず、さまよっている。もう俺の人生は終わりだ。もうすでに絶望は通り越して、今はいっそ万能感にも似た諦観に満ちている。
以前の俺は、金に対して頓着することを賤しいことだと思っていた。だが、違う。金は生きていく上で必要なものだ。それにこだわらない時点で、俺は本気で生きていなかった。
金よりも義理人情を愛したこと。それが、俺の落ちぶれた元凶だ。そう確信している。だが、「金」とはなんだ。その正体は。学校ではこんな現実、教えてくれなかったじゃないか。
金について知ろうと、俺は図書館に向かった。見つけたのは、『資産運用の教科書』という本である。以前の俺ならば、見ることすらもしなかっただろう。
「資産運用」という言葉が、俺は嫌いだった。自分の金を増やすことに興味はない。ましてや、株や投資信託。投資は俺がもっとも忌むべき言葉だった。
だが、今ならばわかる。俺の中にあった金に対する不信感こそが、今の状況を創り出した。俺はもっと、理想ではなく汚い現実、「金」という怪物に目を向けるべきだった。
その本は、まさに「教科書」と呼べるものだろう。資産運用のことが何ひとつわからない俺でも、わかりやすく学ぶことができる。例題が多く、数字が具体的だからだろうか。
俺はこの本を、もっと早く読むべきだった。もう、何もかも遅い。資産運用は早くからすべき、と書かれているその言葉を見て、俺は思った。遅すぎるよ、この野郎。背後から、荒々しい足音が聞こえる。俺に破滅を与える足音が。
資産運用の全て
もし、あなたがこんな世の中に住んでいたら、どうでしょうか? 今日は待ちに待った給料日、ところが、給料は今の日本のように銀行振り込みでもなければ現金手渡しでもありません。小切手を経理の担当者から手渡されるのです。
小切手を現金にするには換金してもらう必要があります。小切手換金店では、換金1万円ごとに1000円の手数料がかかります。
小切手換金店は短期ローンの貸金業者も経営しています。「ペイデー・ローン」の貸し手というわけです。このペイデー・ローンでは、1万円を借りるごとに1500円の手数料がかかります。
残ったお金は生活費や家賃に消えていきます。これは、さすがにきついものがあります。そこで、今回はペイデー・ローンの返済を先延ばしにすることにしました。
給料が入るまでのつなぎとして借りたペイデー・ローンは、このまま延ばし延ばしにしていると、返済する利息は年利換算で400~600%にもなります。こんな調子では、生きている限り、あなたは延々と手数料や利息を支払わされることになるのです。
こんな世界は現実にあります。それはアメリカ合衆国です。移民や低所得層が当座預金の口座が作れずに、銀行のシステムさえも利用していないのです。彼らはUnbankな生活を送っています。
このために、アメリカでは学生に対するパーソナルファイナンス教育が盛んです。そして、今やわれわれ日本人もパーソナルファイナンスの勉強が必要になってきたようです。
風潮に流されて、利息がどれくらいのスピードで増えるのか知らずに安易にお金を借りていたら、あっという間に自己破産に陥ってしまうでしょう。
この本は、経済リテラシーとパーソナルファイナンスの教育を研究している私たちが、日本人向けにパーソナルファイナンスを講義したらどうなるか? という設定で編集したものです。
学生の方から社会人、さらには老後のライフプランをお考えの年配の方まで、幅広い方にわかりやすく説明するとともに、なるべき身近なことや実際に起きたことを例に挙げながら説明をしました。さあ、パーソナルファイナンスの講義の始まりです。
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