最強魔導士の異世界転移ファンタジー『魔導師は平凡を望む』広瀬煉


「最近、どれもこれもマンネリで、なんかおもしろくないんだよねえ」

 

 

 彼女の背中にぐったりと体重を預けて携帯を弄りながらぼやく私に、彼女はそうだねえと相槌を打った。

 

 

 ねえ、重いんだけど。どけよ。という彼女の抗議の声は黙殺する。彼女の仄かな暖かさはとても心地いいのだ。

 

 

 私が眺めていたのは大手の小説投稿サイトのランキングだ。数年前から入り浸っては作品を漁っているけれど、近頃はどうも気が乗らないでいた。

 

 

 その理由は、変わり映えのしないランキング上位の作品による。いや、作品はたしかに日ごと変わってはいるのだけれど。

 

 

 いわゆる『テンプレ』と呼ばれるような、転生だとか異世界だとかいう、よくあるタイプの作品がランキングを埋めているのは私が見始めた数年前から見慣れた光景だった。

 

 

 そのサイトの名前をとって『なろう系』なんて揶揄されるその作品の量産は、人によっては嬉しいかもしれないけれど、私や彼女のような人間にとってはうんざりするような事態である。

 

 

 というのも、私も彼女も、『テンプレ』なんてものにいい加減食傷気味なのである。たまには違うのを読みたいなと思いつつも、ランキングには『なろう系』ばかり。

 

 

 最初の頃こそ楽しんで読んでいたジャンルだけれど、今では目に入るとすぐにブラウザバックするほどに嫌気がさしていた。

 

 

 ああ、新しい風に触れたい! ハーレムとか異世界とか転生とか悪役令嬢とか、もう十分だから。過剰摂取だから。なんて叫んでも、ランキングはそのままである。

 

 

 もちろん、探せば見つかるのだろうけれど、アマチュア作家ばかりが書いているおかげで分母だけはどデカい投稿サイトの作品は、星の数ほどあると言われても納得できそうなくらい。

 

 

 その中からひときわ輝く一番星、じゃなくて珠玉の名作を探すのは至難の業であった。

 

 

 そんなわけもあり、近頃の私たちはランキングに視線を滑らせては、特に読むこともなく、あらすじだけつまみ食いしているような状態なのである。そう思っていたのだけれど。

 

 

「おっ、これ、おもしろいかも」

 

 

「え、マジで。なんて作品よ」

 

 

 彼女が上げた声に、思わず反応する。けれど、次の彼女の言葉で、私は落胆した。さすがにうんざりした表情を隠せない。

 

 

「『魔導師は平凡を望む』ってやつ。なんか、異世界転移ものだね。しかも、逆ハー」

 

 

 ド直球のテンプレものじゃないか。私が欲しいのはそんなのじゃないのよ。なんてふざけて叫ぶと、彼女はにやりと笑った。

 

 

「まあ、読んでみなって。ひとまず、私はおすすめしとくよ。どうせ、他に読むもんもないっしょ」

 

 

 よかろう、そこまで言うならば読んでやらんこともないぞよ。ふざけて言って件の小説を検索する私の頭に、何のキャラだよとツッコむ彼女の手刀が直撃した。

 

 

 『魔導師は平凡を望む』はまさしく彼女の言った通り、異世界転移もののようだった。

 

 

 主人公ミヅキは突然、何の役割も前兆もなく、異世界に落ちてしまう。彼女はそこで通りかかったゴードンという医師に拾われた。

 

 

 その世界において異世界人は珍しいものじゃないらしい。というわけもあり、異世界人ミヅキは特に軋轢もなく世界から受け入れられる。

 

 

 村でおよそ女性らしくない逞しいスキルを磨いた彼女は、ある時、イルフェナという国の騎士と出会う。

 

 

 白騎士アルジェントから城に行くように言われるも、ミヅキは拒否。けれど、その時に彼に入れた一撃がきっかけでミヅキはアルジェントに好意を寄せられるようになる。

 

 

 彼を追い払うため、ミヅキは彼の主である王子様に会うことになった。けれど、そこから彼女の物語は思わぬ方向にころがり始める。そんなお話。

 

 

 私はなるほど、と思った。たしかにおもしろい。他のテンプレ作品にはないタイプのおもしろさだった。

 

 

 異世界トリップ。チート。逆ハーレム。主人公最強。まさにテンプレの宝庫みたいな感じ。私のテンプレ嫌いが疼くぜ。

 

 

 と、思っていたのだけれど、この作品のおもしろいところは、よく見るようなテンプレを、ことごとく潰していくような爽快感だった。

 

 

 ミヅキは頭の良い女性で、策謀がすごい。魔法も強いのだけれど、彼女は強い魔法で敵を蹴散らすんじゃなくて、言葉と理屈で相手の心をぶち折るのだ。

 

 

 それだけじゃなく、ミヅキはいろんなイケメンから好意を寄せられるのだけれど、彼らとは恋愛関係じゃなくて仕事仲間としての信頼関係を築くようになる。

 

 

 まあ、彼らみたいなイケメンはたしかに嬉しくないのかもしれないけれど。変態ばかりだし。

 

 

 ともあれ、そんな感じで、テンプレ小説でありながらテンプレを真っ向からぶち壊していくような作品だったのだ。

 

 

 長い作品だったけれど、気がつけば私は彼女と一緒に夢中になって読み込んでしまって、外はもう暗くなっていた。

 

 

「え、マジか。もうこんな時間」

 

 

「ほんとだ。気付かなかったわ」

 

 

 読書に夢中になって遅くなるのはいつぶりのことだろう。門限はとっくに過ぎている。パパに怒られる。

 

 

 なんてため息を吐いていても、心の中にはたしかな充足感があった。本を読んだ時の特有のやつ。その原因は言うまでもない。

 

 

「で、どうよ」

 

 

「うん?」

 

 

「おもしろかったっしょ」

 

 

 本も買おうな。そう言って笑う彼女に、私は、今月きついからワリカンな、と返して、彼女の家を後にした。

 

 

 そして、私は気がついたら異世界にいた。なんてことになったらおもしろいのにな。もちろん、そんなことはなくて、パパにはしっかり怒られた。

 

 

最強の魔導師がテンプレをぶち壊す

 

 人生にはアクシデントがつきものである。今日まで平穏だからといって明日もそうだとは限らない。そんなわけで、気がついたらファンタジーな世界にいました。

 

 

 立ち眩みして次に目を開けたら異世界です。上を向いたら太陽らしきものが二個あるんだもの。地球じゃねえよ、明らかに。

 

 

 とりあえず流行の『異世界トリップ』というやつじゃないかと自分を無理やり納得させました。

 

 

 さようなら、文明生活。できれば近いうちに帰りたい。まずは割り切って生きることに専念しよう。永住する気は全然ないけど。

 

 

 そう決めると、私は生きるべく行動を開始した。その後すぐに通りかかった馬車に拾われたのは幸運だった。迷子だと勘違いされたのだとしても。

 

 

 そんな風に思っていた時期もありました。幸いにも魔力持ちだったので知識を活かして魔導師になりました。人生何があるかわからんね。

 

 

 異世界トリップのお約束設定は一通りあった。すなわち『異世界でチート能力使って逆ハー状態』。面倒です、ものすごく。全力で拒否します。

 

 

 夢は見るな。はい、これに尽きます。『物語』であるからこその素敵な設定なのですよ。『読み手』から『登場人物』になった時点でそれは現実なのです。

 

 

 これは何の役目もなく異世界に辿り着き、これまでの知識をフル活用して障害を取り除こうとする枯れた女性の物語である。

 

 

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