売れない劇作家の男と、夢に破れた女『劇場』又吉直樹
私は誰もいないホールに、ひとりで座っていた。開幕のブザーが鳴り響き、幕が上がる。進んでいくストーリーを、私だけがただ、見つめている。
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
私は誰もいないホールに、ひとりで座っていた。開幕のブザーが鳴り響き、幕が上がる。進んでいくストーリーを、私だけがただ、見つめている。
甲高い泣き声が頭に響く。それはまるで、私に向けた糾弾であるかのようだった。ああ、もう何度、この愛する我が子を憎らしく思ったことだろう。
「ホルモーおもしろいよねぇ」
はぁ、と、思わずため息が零れた。最近、肩こりがひどい。ストレスかな。仕事の疲労がずっと残っているような気がする。
「俺、お笑い芸人になるわ」
「添加物を色々混ぜると、ハンバーガーそっくりの味になるんだよね」
「鴨川ホルモン? なんだ? 鴨川にある焼き肉の店か何か?」
「人材ではなく、人財になりなさい」
時は太平。戦国の世もすでに過去となり、豊臣の時代は終わりを告げた。今や権勢を握るは徳川である。刀を握る戦いの日々は過ぎ去り、我ら忍びもま...
鏡をね、見たんですよ。えぇ、そうです、あの、鏡。それがきっかけでした。鏡を見たから、私は罪を犯したんです。