光の王子と人嫌いの魔導士のTS転生ファンタジー『転生王子と白虹の賢者』楠のびる


 私は人間が嫌いだった。彼らの思考回路ほど難解なものはこの世にないからだ。

 

 

 非合理的で、効率の悪いことばかりする。そのくせ、効率の悪いことを殊更に嫌悪する。

 

 

 その方法が非効率的であることくらい、ほんの少し頭を働かせればわかるだろうに。それなのに、彼らときたら、何ひとつとして考えようとしない。

 

 

 伝統を妄信し、進歩を拒絶し、過去から学ばず、ただ過去をなぞることしか能がない。

 

 

 自分より劣る人間を排斥し、優れた才能を賛美する傾向があるのに、あまりに優れた才能を落としてやろうと躍起になっている。

 

 

 くだらない。実にくだらない。だから、私はそんな彼らと群れることは何より嫌いだった。

 

 

 彼らはあれで隠しているつもりなのだろうか。親しみの裏に隠された嫉妬心を。友達という言葉に包まれた嫌悪を。

 

 

 隠しているつもりなのだろう。そして、私に気付かれていないと根拠もないのに確信して、醜い笑顔で話しかけてくるのだ。

 

 

 彼らと私は違う存在だった。同じ人間でありながら、同じ人間ではなかった。私は彼らよりも高みにいて、彼らは私を見上げていた。

 

 

 彼らから見た私の姿は、見ることはできないだろう。彼らにとって私は化物であり、日常の中に紛れ込む異物である。

 

 

 だがしかし、私から見た彼らもまた、低すぎて見ることはできない。虫が何を考えているのか、わかる人はおるまい。

 

 

 化物の心を誰も知ることができないように、化物もまた、人の心を知ることはできないのだ。

 

 

 社会の中に無能はいらない。だが、天才もまた、いらないのだ。社会が欲していても、人間がくだらない感情からそれを排斥してしまうから。

 

 

 結果として社会には有象無象しかいなくなる。毒も薬もいない、ただの水しかいなくなる。

 

 

 自分と同じような平凡しか愛さず、自分と同じような平坦しか認めない。そんなプライドに拘泥するから、何も先に進まないのだ。

 

 

 私は人間が嫌いだ。誰もが化け物になれる才能を秘めているのに、なろうと努力すらしない彼らが嫌いだ。

 

 

 フランケンシュタインの怪物は人間に愛されようとした。私からすれば、そんなのは愚かしいことだ。化物嫌いの人間が彼を愛そうとするはずがないではないか。

 

 

 彼は人間を見限るべきだったのだ。人間どもに怪物を愛す資格はない。自分たちが社会という怪物であることに、彼ら自身が気づいていないのだから。

 

 

 鏡を見るがいい。そこに映るお前の顔は、自分で考える脳を持たない、目と鼻と口があるだけの、ただの泥人形に過ぎないだろう。

 

 

たったひとりの化物

 

 人間は嫌いだ。だが、如何ともしがたいのは、私たちはどうあがいても社会から逃れることができないことである。

 

 

 どんな化物であっても、私たちには父と母がいる。それが未来では試験管になっているのかもしれないが、少なくとも現代はそんなことなどない。

 

 

 そして、後にどれほど屈強な人間になる未来が待っているとしても、生まれたての赤ん坊はそこらの獣よりも無力である。

 

 

 つまり、人はどれだけ人を嫌っていても、一人では決して生きていくことができないのだ。

 

 

 それが私にはこの上なく煩わしい。しかし、煩わしくとも、完全に切り離すことはできないのだ。

 

 

 人間は社会的な生き物である。どこぞの哲学者の言っていた言葉が、今では実感となって私を苦しめる。

 

 

 人は一人では生きていけない。どれだけひとりで生きていきたいと願っても、それが現実だ。

 

 

 化物と呼ばれ、そして化物を自称する私であっても、人間だ。どれだけ人間を否定しようとも、私自身が人間であることを否定はできない。

 

 

 私は寂しかったのだ。こんな才能なんていらないから、ただひとり、隣に立ってくれる人さえいてくれれば、それでよかったのに。

 

 

 私は人間が嫌いだ。私のことを理解してくれない、私が寂しいと思っていることを知ろうとすらしてくれない彼らが嫌いだ。

 

 

 そして、なにより、私自身が一番嫌いだ。人間が嫌いだと嘯きながら、自分自身すら騙せない私がこの世の何よりも嫌いなのだ。

 

 

転生王子の恋の行く末は

 

 新しい年を迎えた冬のグレイシス王国。王都にある城の大広間は本日、王族から貴族、高官たち一同が出席する宴が催されていた。

 

 

 そんな賑わう会場を、広間の隅で大人しく椅子に座って眺めている子供がいた。あと数か月で七歳となるその子供は表面上微笑みを浮かべながら、内心ウンザリしていた。

 

 

 彼の名はハーシェリク・グレイシス。グレイシス王国の末の第七王子であり、親しい者はハーシェリクと呼ぶ。

 

 

 そんな彼には以前、もう一つの名前があった。名前は早川涼子。とある上場企業で事務員として働く女性だった。ハーシェリクの前世。

 

 

 彼はここ一年半のことを思い出す。薬と孤児院の事件から何事もなく一か月が過ぎたあたりで、ハーシェリクは行動を起こすことにした。

 

 

 筆頭たちをお供に国民に助けの手を差し伸べ、悪事に手を染める貴族がいれば証拠を持って笑顔で追い詰める。まるで前世の某時代劇のごとく世直しを始めた。

 

 

 表向きは温和な末の王子。裏ではお供を引き連れ世直し道中。それがハーシェリクの作戦、題して虎穴作戦である。

 

 

 彼が宴に出たのは、釘を刺した貴族たちの監視のためだった。その用事を終わり、帰ろうと思っていたハーシェリクを兄たちに呼び止められる。

 

 

 上座の父である王の場に到着し、第一王子に促され前に出ると、そこにはグレイシス国王である父がいた。

 

 

 その隣には警戒すべき人間がいた。バルバッセ大臣。この国の貴族を取りまとめる存在である、裏では王家をも脅しこの国を牛耳る存在。

 

 

 そして、その男の口から驚きの言葉が飛び出した。

 

 

「よろしかったら我が娘と婚約はいかがでしょうか?」

 

 

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