彼は口下手な人でした。いつも眉間にしわを寄せたしかめっ面をして、不機嫌そうな態度をしていました。
そんな彼ですから、人からは避けられ、遠巻きにされたものです。彼とよく話していたのは、幼い頃から付き合いのある私くらいでした。
高校生くらいになっても、彼は相変わらず友達がいませんでした。でも、彼は見た目だけはかっこよかったので、女の子たちの中には彼にアプローチをかける子もいました。
私はそのたびにどうしてだか胸がざわついたものですけれど、彼は誰の告白にも応じることはありませんでした。
そんな中、女子のひとりが彼に告白すると宣言しました。彼女はクラスでもとびきりかわいい子で、自分のかわいさに自負を持っている子でした。
「好きです。付き合ってください」
彼女は教室の、みんながいるところで彼に堂々と告白しました。
よほどの自信があったのでしょう。また、クラスでもアイドルの彼女をみんなの目の前で振れないだろうという計算もあったのでしょうね。
「いいや、無理だ。すまない」
ただ、彼には通用しなかったようですけれど。彼女は聞いた途端、信じられないと言わんばかりに目を見開いて、その後、涙目で彼を睨み付けると、どこかへ走っていきました。
彼女自身の計算が大勢の面前で振られるということになってしまったからでしょうね。彼女のプライドはぼろぼろに壊されたのです。
以来、彼女はなぜか私を陰で嫌がらせをするようになりました。聞こえよがしに嫌味を言ったり、物を隠したり。
私は、まあ、正直ショックは受けましたけれど、そこまで悲しむこともありませんでした。もともと、こういったことには鈍感でしたので。
ただ、私が嫌がらせを受けている時に、彼が悲しそうに目を伏せる、それだけが、私にとっては何よりも悲しかったのです。
彼は次第に私と話さなくなりました。私が話しても、他の子たちに対するのと同じように、私に冷たくするようになりました。
やがて、私たちは話さなくなり、そして、最後の最後まで、そのままでした。
言葉にしなければ伝わらない
彼女はあまり話さない、大人しい子だった。いつも穏やかな笑みを浮かべている、そんな子だった。
そんな彼女だからこそ、ぼくは昔から彼女のそばにいた。ぼくは口下手だったのだけれど、彼女のそばはそれを許してくれるような包容力があった。
でも、高校生になると、ぼくの周りが途端に黄色い声で騒がしくなった。うるさいなと思いつつも、乱暴に払いのけるなんてできない。
女の子たちから受ける告白を、ぼくは煩わしく思っていた。呼び出された場所に向かうぼくを、彼女がどこか寂しげに見つめているのを知っていたから。
ぼくは彼女のことが好きだった。でも、それを言う勇気がなかった。告白をする女の子たちはすごいと思う。
その子は教室の、みんながいる前で堂々と告白してきた。その目は自信に満ちていて、ぼくが断るなんて考えてもいないようだった。
でも、ぼくはいつものように断った。涙目で走り去ったその子には悪いと思ったけれど、告白を受けることはできないのだ。
それに気づいたのは偶然だった。彼女を探していると、何人かの女子に囲まれている彼女を見かけた。
囲んでいる女子の中にはあの告白してきた子もいた。彼女は表情を醜く歪ませて彼女にひどい言葉を吐いていた。
彼女はそれでも、ただ困ったように笑っていた。彼女はバカじゃない。ひどい言葉を言われていることはわかっているだろうに、それでも笑っていた。
彼女への嫌がらせの原因はぼくにあるらしい。先導しているのはあの告白してきた子だった。
ぼくは彼女を助けたかった。笑ってはいたけれど、それはどこか無理をしたような笑いに見えた。でも、彼女はぼくに助けを求めようとはしなかった。
ぼくは悩んだ。どうすれば彼女を助けることができるのか。悩んだ末にぼくは、彼女と距離を置くことにした。
彼女と話さなくなった。彼女が話しかけてきても、冷たく接した。寂しげな表情をする彼女に心が痛んだけれど、彼女のためだからと我慢した。
やがて、彼女はぼくではなく、別の子と話すようになり、ぼくも別の友だちと話すようになった。
彼女はもう嫌がらせを受けていない。でも、ぼくは彼女にもう一度話すことが出来なくなっていた。
気がつけば、彼女はどこかへ引っ越ししていなくなっていた。からっぽになった家を見て、泣きそうになる。
ぼくは彼女を救うためにしたんだ。間違っていない。空虚な満足感がぼくの心を必死に慰めていた。
幼馴染との別れ
彼は幼い頃、親から嫌われておりました。黒い髪はこの国では嫌われていたのです。
彼は叔父さんのもとに引き取られることになります。叔父さんは彼を愛してくれましたが、彼の心を開くことはできませんでした。
そんな彼が出会ったのはひとりの女の子。彼のことを嫌いもせず、恐れもしない、不思議な子でした。
彼とその子はいっしょに本を読んで過ごすようになりました。会話もない、静かな時間。それでも、彼らは次第に心を通わせていきました。
事故が起こったのは、そんな頃のこと。彼は上級の魔導書を発動させてしまったのです。
女の子は背中に治らない傷を負ってしまいました。しかし、彼女は変わらず自分と友達でいてくれました。
彼はその時、女の子のことを好きになったのです。しかし、学院に入ることになった彼は、長い間女の子と会えなくなってしまいます。
手紙のやりとりしかできなかった七年間。学院を卒業してようやく会えた彼女は、変わらず彼のことを待ってくれていました。
しかし、女の子といっしょにいられた時間は、そう長くはありません。魔王を倒す冒険の旅に、彼は同行することとなったのです。
魔王の側近は強大な敵でありました。仲間たちを救うため、彼は自分もろとも巻き込む大魔法を使います。
彼は行方不明になりました。王都では、彼が亡くなったと伝えられました。
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