不可解な事件を科学で証明する『探偵ガリレオ』東野圭吾


 昔、理科の実験が大好きだった時期がある。小さなアルコールランプを、胸を躍らせていたあの頃が。

 

 

 当時、「実に面白い」というフレーズを何度も耳にしていた。『ガリレオ』というドラマが大好きだったのだ。

 

 

 『ガリレオ』は一見すれば理由のわからない不可解な難事件を、科学の力で証明するというミステリだった。主役の刑事を柴咲コウさん、そして科学者、湯川学を福山雅治さんが演じている。

 

 

 人の頭が、突然燃える。その謎めいた描写に、私は一気にドラマに引きこまれた。トリックなんて少しもわからなかった。

 

 

 その思いもよらない真相を、湯川が解明した時にはもう、私はそのドラマの魅力にすっかり囚われてしまっていた。

 

 

 湯川教授の真似をして「実に面白い」なんて言うくらい。もっとも、私は物理は何よりも苦手だったのだけれど。

 

 

 『ガリレオ』の世界観にどっぷりハマった私は、そのままの勢いで原作でも読んでみようと考えた。図書室で背表紙を見つめながら、ようやく目的の本を見つけ出す。

 

 

 『探偵ガリレオ』。ミステリ作品を多く手がけている東野圭吾先生の作品だ。胸を躍らせながら、ページを開く。

 

 

 少し読んで、ふと、首を傾げた。ドラマとは随分と違ったのだ。ドラマでは女性刑事、内海が湯川を訪ねるところから始まるのだけれど、原作では女性刑事なんてほとんど出てこない。

 

 

 代わりにいるのは、草薙という、湯川の大学の同期だという男性刑事だった。彼が湯川を頼る形で、事件の証明が始まる。

 

 

 ドラマとの違いに、最初こそ戸惑ったものの、読んでいくうちに、原作には原作ならではのおもしろさがあることに気が付いた。

 

 

 大学の同期だということもあって、湯川は草薙に対して協力的だ。彼が訪ねてくる頃合いに事件に関わる科学のイタズラを仕掛け、驚かせることだってある。

 

 

 何より、いかにも気の合う友人といったような、二人の軽快なやり取りが読んでいて楽しい。それは古くからの友人という設定ではないドラマには、ない新たな魅力だった。

 

 

 『ガリレオ』はドラマから映画になり、派生のシリーズも次々と生まれた。そして、原作の作品もシリーズとして数多い。

 

 

 あれから何年経った今、改めて読みなおそうと思った。『ガリレオ』の世界はまだまだ終わらない。だから、思わず言ってしまうのだ。実に、面白い。

 

 

変人ガリレオ

 

 草薙が帝都大学理工学部物理学科第十三研究室を訪ねたのは、奇怪な事件が起きてから三日目のことだった。

 

 

 目的の部屋は三階にあった。草薙は、約束の二時を少し過ぎていることを確認してからドアをノックした。

 

 

 はい、という声が聞こえた。それで彼はドアを開いたが、部屋の中を見て一瞬たじろいだ。室内は明かりがついておらず、真っ暗だった。

 

 

 白衣姿の男が、カーテンの端を持って立っていた。長身で色白、黒縁眼鏡をかけた秀才タイプの顔つきは、学生の頃からほとんど変わっていない。

 

 

 湯川はカーテンをすっかり開けてしまうと、白衣の袖をまくりながら草薙の方へ歩み寄ってきた。そして右手を出した。

 

 

「元気だったかい」

 

 

「いつ以来かな」

 

 

「最後に会ったのは三年前の十月十日だった」

 

 

「大学の方はどうだい。助教授になって、いろいろと大変じゃないのか」

 

 

「大きく変わることはないね。それより、君の方こそ大変じゃないのか。特にここ二、三日は」

 

 

 彼がコーヒーを淹れてくれる間に、草薙は手帳を取り出し、事件の概要をもう一度見直した。

 

 

 まず花屋通りという地味な道路の道端で突然局所的な火災が起き、近くにいた若者五人のうち一人が亡くなり、残る四人は重軽傷という被害が出た。

 

 

 灯油用の赤いポリタンクが見つかっているが、なぜそんなものがあったのかは不明。若者たちは、絶対に自分たちが火を付けたのではないと主張している。

 

 

 ではなぜ突然火災が起きたのか。

 

 

 プラズマ説は、一部のマスコミが言い出したことだった。それで一度プラズマについて調べてみようということになり、草薙が大学時代の友人である湯川を訪ねることになったのだった。

 

 

「で、どう思う?」

 

 

「僕としては、今のところ何の意見もない。何しろデータが何ひとつないんだから、仮説の立てようがないよ」

 

 

「それなら、新しい情報を与えてやろう」草薙はそう言いながら上着の内ポケットから小型のテープレコーダーを取り出した。

 

 

「少年のひとりから話を聞いた時のものだ。まあちょっと聞いてくれ」

 

 

 まず簡単な身元確認がある。少年の名前は向井和彦、十九歳だった。

 

 

「燃えた時のことを教えてほしいんだけどね。その前に何か変わったことはなかった?」

 

 

「特に何も。やっぱり良介の話を聞いてただけ。それでそうしたら急に燃え出したんだ」

 

 

「ポリタンクが燃えたんだね」

 

 

「そうじゃなくって、良介が、良介の頭が。髪の毛が……あいつの後ろの髪の毛から急に火が出たんだ」

 

 

「ちょっと待って。まず火に包まれて、それでその友だちの頭が燃え出したんじゃないのかい」

 

 

「違う、そうじゃない。あいつの頭が燃えたんだ。最初に良介の頭が燃えたんだ」

 

 

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