巨大な敵と戦うハンターたちの生き様『モンスターハンター』ゆうきりん


 幼い頃、村長からひとりのハンターの物語を聞いた。それはもう、何年も昔の話であるらしい。

 

 

 ジーグ・グランエストというハンターの名を知らないものはいない。だが、その物語は彼がまだ、新人だった頃の話である。

 

 

 ハンターは命と隣り合わせの危険な職業だ。ほんの少しの油断が、命を失うことにもつながることがある。

 

 

 ジーグは思い上がりの激しい少年だった。怪鳥の討伐において、彼の育った村での最短記録を打ち立てたためだ。だが、それが彼の傲慢の原因だった。

 

 

 そんな彼の伸びた鼻っ柱を折ったのは、エルメリアという若い女性だった。彼女は若くしてパーティのリーダーとして優れた実力を持っていた。

 

 

 ジーグは彼女のパーティに参加し、ともに狩りに出かけ、今まで戦ったことのないような強敵との戦いを繰り返すうちに、ハンターとして成長を遂げていく。

 

 

 それがハンターとしての『ジーグ・グランエスト』の始まりであった。幼かった私は、何度聞いてもその物語に魅了され、憧れた。

 

 

「いいか、どんな英雄であっても、最初から英雄だったわけじゃない。経験を重ね、切磋琢磨し、学ぶ。そうして彼は英雄になったんだよ」

 

 

 村長はいつも、そう言って物語を締めくくった。ハンターに憧れる私たち子どもへの戒めと、そして期待を込めていたのかもしれない。

 

 

 周りの子どもたちは華々しい英雄の活躍を聞きたがっていた。村長が好んで話すその物語は、多くの子どもたちに不評だった。

 

 

 この物語に描かれているのは英雄ではない。ひとりの未熟なハンターでしかなかった。圧倒的な実力でモンスターを倒す物語ではない。あまりにも泥臭く、リアルである。

 

 

 でも、私は英雄の華々しい活躍の物語よりも、村長の素朴な声で話してくれる昔話の方が好きだった。

 

 

 だってそれは、英雄が英雄として生まれることなんてないのだという、メッセージのように思えたから。

 

 

 ただの凡人であったとしても、努力と学んでいく姿勢次第で、後に夢を叶えることができるのだと、その物語は教えてくれているような気がした。

 

 

 あれから数年、ともに物語を聞いた子どもたちは、ある人は商人になり、ある人はハンターになり、またある人は職人になった。

 

 

 そして私は、今、獣の声の響く森の奥で、身を小さくかがめて、息を潜めている。

 

 

 どくどくと脈打つ心臓が、私が生きていることを教えてくれた。こめかみから一筋の汗が伝う。

 

 

 唸り声。闇に光る眼光。そうだ、子どもの頃の私が夢に見ていたのは、この瞬間だった。

 

 

 巨大な影が濃密な敵意を持って、私に相対してきた。腕が震えているのは、武者震いだろうか。私は自分の手に握った剣で、私に向かってくる鉤爪を受け止めた。

 

 

ハンターの成長

 

「すっげー……これが《街》か……」

 

 

 思わず呟いてしまってから少年――ジーグ・グランエストは、辺りで、くすり、と忍び笑いが起こったことに気が付いた。

 

 

 慌てて唇を引き締め、荷物を背負い直す。革の大きな袋が、背中の大剣にあたって鈍い音を立てた。

 

 

 まずは行水をしたかったが、《ハンター》は、何をするにもこの《街》では《ギルド》――《組合》に登録する必要があった。

 

 

 ハンターばかりの街を見回して、ジーグはうずうずした。依頼を受けるようになってわずか数か月で、大怪鳥《イャンクック》を倒したことは、村の歴史が始まってからの最速記録だった。

 

 

(俺もすぐだ。すぐに、一流って言われるようになってやる)

 

 

 胸を張り、ジーグは水の出ていない噴水を通り過ぎて、岩山をくりぬいて作られた入り口のひとつへ向かった。

 

 

 まるで、霧の中に迷い込んだかのようだった。誰も、ジーグを気にする者はいない。ちらりと見るものはあったが、まるで石ころか、雑草を見たかのような態度だった。

 

 

(なんだよ)

 

 

 ジーグは、ほんの少し腹が立った。田舎の村のこととはいえ、《イャンクック》討伐の最速記録を打ち立てたのだ。当然、噂ぐらいは届いているはずだと思っていた。

 

 

「いらっしゃい。あら、初めて見るお客さんね。どこから来たの?」

 

 

 カウンターの女性は、にこやかに出迎えてくれて、ジーグは少しだけホッとした。村の名前を告げると、不意に、店の中が静かになった。

 

 

「それで、この街にはどんな用で?」

 

 

「ここの《ギルド》に登録したいんだ」

 

 

「それなら、わたしじゃなくて、彼に言ってね」

 

 

 差し出した紹介状を、しかし、女性は受け取ろうとしなかった。眉をひそめたジーグに、女性はカウンターにいる老人を示した。

 

 

 折り畳んだ紹介状を差し出すと、老人はゆっくりとした動作で受け取り、読み終わると、自分の懐にしまい込んだ。

 

 

「ベッキー、登録証を作ってやっておくれ」

 

 

「マスター、彼の《ハンターランク》はどうしますか?」

 

 

「《ルーキー》で十分」

 

 

「なっ!」

 

 

 ジーグの顔は真っ赤になった。《ルーキー》とは、数ある《ハンターランク》の中で、二番目に位の低い名称である。

 

 

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