日本の職場の実態『なぜ、日本の職場は世界一ギスギスしているのか』沢渡あまね


どうして俺はこんなことをしているんだろう。ふと、そんなことを考えた。どうして、俺は、今日もまたあそこに行こうとしている? あの最悪な場所に。

 

大学を卒業した俺が就職したのは、小さな工場だった。昔から俺の親と付き合いがあるところで、まあ、いわゆるコネ入社というやつである。

 

休日は少なく、給料も決して高くはない。それでも構わないと思っていた。だが、入社してすぐ、俺は事前に聞いていたそんなものよりも遥かに厳しい環境にあることを知った。

 

小さな工場というだけあって、人数は不足している。俺と同じ部署には五人。それぞれがいつも忙しなく走り回っている。

 

人数は少ないけれど、アットホーム。なんてことはなかった。毎日のように響く怒鳴り声。職場には常にひりつくような緊張感が漂っていた。

 

一度などは、部署の長とベテランの社員が殴り合いの喧嘩をしていたこともある。誰もが息をつめてその光景を見つめていた。騒動が終わった後、二人は固く口を閉ざし、周りは何事もなかったかのように作業を再開した。

 

その日の帰り道、俺は一冊の本を買った。『なぜ、日本の職場は世界一ギスギスしてしているのか』。言うまでもなく、その瞬間の俺の心そのもののタイトルだったからである。

 

そもそも、学生の頃からすでに、職場に対して期待は何もしていなかった。さすがにここまでとは思っていなかったが、イメージとして、職場には悪い印象を抱いていた。

 

ブラック企業という言葉がよく知られるようになったのは、俺が就職するよりも前だ。就職したことがない学生の仕事に対するイメージがそうなっているのは、日本社会の大きな問題なのだろう。

 

ならば、どうしてそうなってしまったのか。その本には、その答えが書かれていた。そして、いったいどうしたら、このギスギスを解消できるのか、も。

 

この本の内容は、正鵠を射ていると思う。だが同時に、俺は、それが現実として実現することはないだろうとも思っていた。

 

就職してみてわかった。日本は、何も変わっていないのだ。昔は良しとされていたものが今ではそうではなくなっているにもかかわらず、今でもそれにしがみついている人たちがたくさんいる。

 

そして、それを一切悪いことだとも感じていない。会社を仕切っているのは、そんな老害たちだ。そして社員は、「会社には従わなければならない」という盲目的な信仰に囚われていて反論すらしない。

 

俺はずっと、それなりに日本に対しては愛着があった。自分が育ってきた国だ。日本のためならば、という考えもある。

 

だが、これが俺が愛してきたものの実態だというのか。日本を動かしている「会社」というもの。日本を悪くしている癌そのもの。

 

今、俺の懐には辞表がある。もう仕事には行きたくなかった。ギスギスしている職場。それを直そうともしないこの国の、未来はなんて仄暗いのだろう。

 

 

時代遅れの企業

 

日本の職場のモヤモヤが止まらない。なぜ、日本の職場はこんなにもギスギスしてしまったのか? 私は大きく3つの要因を見出しました。

 

日本はものづくり産業を中心とする、大量生産型のマネジメントと組織風土を是としてきました。それが長らく「勝ちパターン」だったからです。

 

しかし、今の時代はどうでしょう? 環境の変化が激しい時代です。今までの勝ちパターンが通用しなくなってきました。

 

「変われない組織」「成長しない組織」「今までの勝ちパターンから脱却できない組織」

 

そのような組織に対し、未来志向の人ほど危機感を高め、ストレスを抱えるようになります。それが職場のギスギスにつながります。私たちは、旧態依然のマネジメントや働き方、いや組織カルチャーまでをもそろそろ見直す必要があるのです。

 

職場環境も職場の空気に少なからず影響を与えます。殺伐とした職場環境で、働く人たちのモチベーションが高まるでしょうか? 生産性が高まるでしょうか?

 

すべての人がプロの仕事に集中できる、それでいてコミュニケーションしやすい執務環境を提供するのは組織の責任と言えるでしょう。

 

世代間の価値観のズレ、いわゆるジェネレーションギャップは年々大きくなっていると言えるでしょう。正しく対話し、正しく議論し、あるいは譲り合い和解ができるならギクシャクはしません。

 

にもかかわらず、ジェネレーションギャップに真摯に向き合おうとしない。あるいは、ともすれば今までのやり方や年長者の論理、あるいは同調圧力でもって押し切ろうとする。それでは、職場がさらにギスギスして当然です。

 

では、ギスギスを解消するには基準をどこに合わせたらよいでしょう? 私はより若い世代に合わせるべきであると考えます。なぜなら、これからの組織をつくっていくのは間違いなく若い世代だからです。

 

私は組織をアップデートするためには、3つのシフトが必要だと主張しています。マインドシフト、マネジメントシフト、スキルシフトです。この3つが合わさって、組織と個人は健全に成長することができます。

 

そこで本書では、職場のギスギスを生む要因を紐解きます。そして、ギスギスした状況に対してどのように向き合えばいいのかを考えていきます。

 

本書が、ひとりでも多くの人が「職場のギスギス」から解放される助けになれば、これに勝る喜びはありません。

 

 

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