世の中には不思議なことがいくつも起こる『コロナと潜水服』奥田英朗
コロナが流行り始めた頃、テレビのインタビューで、ガスマスクをつけた男が答えていたのを見て驚いた。当時は「まるでコスプレのようだ!」と面白く...
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
コロナが流行り始めた頃、テレビのインタビューで、ガスマスクをつけた男が答えていたのを見て驚いた。当時は「まるでコスプレのようだ!」と面白く...
魯肉飯。なんて読むのだろう。その本を手に取ったのは、そんな疑問からだった。『魯肉飯のさえずり』。表紙の少女の表情に、どこか惹かれるもの...
図書館は果たして夢を見るか。私たちはそれがただの建物であり、私たち自身の手によってつくられた意思のない造形物に過ぎないことを知っている。し...
妻が別の男と家を出たのは、つい数時間前のことである。妻の不倫を知った俺が追い出したのだ。空っぽになった部屋を、俺はぼんやりと眺めていた。
幼い頃、私はアニメの『はだしのゲン』が怖くてたまらなかった。原爆を受けたヒロシマの崩壊した町並み、見るに堪えない姿に変貌した人々、彼らのあ...
耳を澄ませてみれば、軽やかな音色が跳ねるように聞こえてくる。モーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』。その音楽に浸りながら、伊坂...
ただ書いていたい。それが生物としての営みに反した、常人には理解しがたい欲望であることは理解していた。しかしそれでも書かずにはいられない。そ...
手の中にある檸檬をじっくりと眺めてみる。鮮やかな黄色。滑らかな美しい流線形。しっとりと指に吸い付く冷たさ。すんと鼻をくすぐる爽やかな香り。
同じ顔。同じ声。同じ誕生日。けれど性格は違う。僕と彼は双子だった。僕は本が好きで、臆病だった。彼は運動が好きで、ヒーローに憧れていた。
彼は偉大な人物であった。しかし、同時に彼ほど救いようのない人間はいないだろう。彼の心には悪霊がとり憑いていた。かつて、ドストエフスキーの作...