犬が見てきた青春の一ページ『犬がいた季節』伊吹有喜
僕はコーシローのことが羨ましかった。ハチコウのように名が残ったわけではない。タロとジロのような苛烈な生き様を送ったわけでもない。だが、もっ...
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
僕はコーシローのことが羨ましかった。ハチコウのように名が残ったわけではない。タロとジロのような苛烈な生き様を送ったわけでもない。だが、もっ...
小鳥のさえずり。蛙の鳴き声。木の葉の擦れる音。私の足が落葉を踏みしめる。私の息遣いが、自然と交わって、ひとつになる。自然は、こんなにも命の...
クジラたちは同じ周波数の鳴き声で互いにコミュニケーションをとっている。でも、一匹だけ。52ヘルツという高い周波数のクジラがいる。彼の声は、...
「好き」ってなんだろうって、ずっと思っていた。夢中になってのめり込めるものなんて、今までの人生の中で何ひとつなかった。「オタク」と呼ばれる...
彼の腕が私を抱きしめる。間近に迫る彼の顔。煽情的に濡れた瞳がきらきらと輝いてきれいだった。私が好きになった瞳。私の親友が好きになった瞳。胸...
いわゆるエッセイというものを、私はあまり好まない。ことに作家のエッセイというものは。作家や声優といった彼らは、表に出るより、影に黒子と徹す...
昔、のそのそと蠢く毛虫を棒でつついて遊んでいたことがある。周りには誰もいなかった。棒が毛虫の首を千切りとったとき、私はその顔をまじまじと見...
綿矢りさ先生の作品を読むと、どうしてだか切なくなる。それは、どこか淡々としている先生の文体のせいかもしれないし、繊細な感情に揺れている女の...
記者たちのマイクを向けられて、額に汗をかきながら、詰問に答えている男。その表情は、少し前まで毅然とした態度を示していた人物と同じだとは、と...
私を今の人生に導いたのは、一冊の本でした。佐藤青南先生の、『ある少女にまつわる殺人の告白』。あの本を読んでいなければ、私の人生は、もっと平...