ともに成長してきた二人の衝撃の実話『ふたご』藤崎彩織
耳につけたイヤホンから、幻想的な音楽が聞こえる。柔らかく透明感のある声。私は目を閉じて、その世界観に身を沈めた。
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
耳につけたイヤホンから、幻想的な音楽が聞こえる。柔らかく透明感のある声。私は目を閉じて、その世界観に身を沈めた。
昔から辞書が嫌いだった。文字が小さくて読みづらいし、重たくて運びにくい。辞書が必要だと言われたら、思わずげんなりする。
「完全犯罪ってのは、可能だと思うか?」
科学は嫌い。私の生活が科学によって支えられていることは理解している。けれど、そのうえで、私は科学が嫌いなのだ。
空に浮かぶ月を見上げる。私は思わず、その青白い光に向かって手を伸ばした。そこに手が届くことなど、決してないのだと知りながら。
ネオンが往路を埋め尽くしていた。水色や、黄色や、けばけばしいピンクが明滅を繰り返している。
絵画が立ち並ぶ通路を、私は辺りを見渡しながら歩いていた。美術にあまり造詣が深くない私でも、知っているような有名な絵ばかりだ。
カチンコが鳴ったら始まりだ。目を閉じる。深呼吸をする。いち、に、さん。よーい、アクション! その声に、顔を上げる。
「よろしくお願いします!」 新しく入社してきた女の子。元気よく挨拶する姿を見て、ああ若いな、と思う。そんな自分を自覚すると、私も...
どうしてこんなことをしなければならないのだろう。そんなことを思いながら、ずっと手を合わせて、祈るふりをし続けていた。