不吉な詐欺師が神を騙す『恋物語』西尾維新
私は正直者である。今までの生涯で一度も嘘をついたことはない。
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
私は正直者である。今までの生涯で一度も嘘をついたことはない。
私には好きな人がいます。ずっと、ずっと、私は彼のことが好きでした。
父の部屋の掃除をしていると、古ぼけた奇妙な写真を見つけた。若かりし頃の父と、恥ずかしげに少し俯いた女性が写っている。
「あなたは、今まで生きてきた中で嫌な思い出とかは、ございませんでしょうか。いっそ、忘れ去りたいほどの」
私はメールに書かれた文面を見てため息を吐いた。そこに書かれているのは彼からの、どこか愛想のない文章。
黒い雨が大地に降り注ぐ。さながら、かの人の最期を世界が悲しんでいるかのようだった。
「いえ、結構です」
ああ、喉が渇く。私は忌々しげに喉を掻き毟る。しかし、それでもこの堪えがたい渇きを癒すことは出来ない。
「『無人警察』って知ってる?」
幼い頃の私の一番古い思い出は、彼に頭を撫でられる記憶でした。その手がとても大きかったのを、よく覚えています。