一流執事としての誇りと回想『日の名残り』カズオ・イシグロ
私は椅子に座って本を読む老人に、ちらちらと視線を寄越す。上品なベージュのコートに袖を通し、背筋をぴんと伸ばしたその姿は小さな本屋にはあま...
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
私は椅子に座って本を読む老人に、ちらちらと視線を寄越す。上品なベージュのコートに袖を通し、背筋をぴんと伸ばしたその姿は小さな本屋にはあま...
「ん~、ほっぺた落ちそうやあ。相変わらずあんたはとろいくせにお菓子作りだけは逸品よなあ」
カーテンを開けると、灰色の曇り空がどんよりと重くのしかかっていた。雨こそ降っていないが、もう少しすれば小雨でも降りそうだ。
彼女は私の全てだった。ならば、そのすべてが失われたとき、私という存在には何が残っているのだろうか。
「私たちは今、この世界にたしかに生きている、という疑いようのない確証を、果たして君は持っているのか」
今、ここにひとつ、告白しましょう。私は兄のことを愛していました。兄をひとりの男性として見ていたのです。
彼女と私は友だちだった。ずっとずっと昔から、私と彼女は一緒にいた。私は彼女のことが大好きだった。
彼らのような人たちのことを、『主人公』と呼ぶのでしょう。歓声を受けながら笑顔を絶やさず歩く彼らを、私はそんなことを思いながら眺めておりま...
現実なんて嫌だ。ゲームの世界に入れたらいいのに。そんなことを考えていたから、こんなことになってしまったのだろうか。
いつだって、俯いて歯を噛み締めていた。悔しい。けれど、ぼくは抗う術を知らなかった。