まだそんな年じゃない。私はまだ若い。私はまだいけるの。自分にそう言い聞かせて、もう何年が経っただろう。
幼稚園の頃、将来の夢を聞かれて、「お嫁さん」と書いたことを今でも覚えている。
そのふんわりした綿菓子のような夢は、小学生、中学生、高校生となっていくにつれて、次第に輪郭を帯びていく。
目つきが悪くて怖いと言われた。委員長を真面目に勤め上げた私は、先生には気に入られた一方で、とうとう、学生の間に彼氏ができたことはなかった。
けれど、いつかは結婚するのだろうと、心のどこかで漠然と思っていたのだ。いつかは誰かと結婚して、子どもを産み、家庭を作るのだ、と。
それから何年も過ぎて、いつしか若いと言われる年齢も過ぎ去って、それでも私は今でも独身だ。彼氏すら、いない。
親や親戚からは「いい人はいないの? そろそろ結婚しないと」とせっつかれている。私はそれに答える言葉もない。
こんなはずじゃなかった。私だって、彼氏と恋愛して、結婚したいのだ。それなのに、もう私は行き遅れのお局になろうとしている。
仕事はできる。上司からも気に入られているし、部下からも慕われている。それでも、どこか虚しい。
仕事のできない、かわいいだけの後輩たちが次々と結婚して退社していく中で、私だけが未だに独り身で職にしがみついている。
どうして。私だって頑張っているのに。頑張れば頑張るほど、結婚が遠ざかっていくような気がする。
若ささえあれば。あの頃さえ、やり直すことができれば。思わずそんなことを思って、ため息を吐く。
ふと、視界の隅で何かがちらついた。視線を送ってみると、そこには一冊の本があった。
『女のしくじり』。ゴマブッ子という人が書いた本らしい。その本は当たり前のような顔をして机の上に陣取っている。けれど、私はその本を手に入れた覚えはなかった。
思わず手を伸ばす。それは、どうやら女がどうしてモテないか、を書いているらしい。
私は思わず目を反らしたくなった。そこに書かれていたのは、私だ。私の行動が、これはダメ、あれもダメと指摘されていた。
今までも誰かに言われることはあった。けれど、直そうとは思わなかった。それなのに、この本に言われると、たしかに、と納得してしまう。
「やり直したい、な」
私が小さく呟いたその瞬間、私が手にした本が突然強い光を放った。思わず悲鳴を上げて目を手のひらで覆う。
恐る恐る目を開けた私は、目の前の光景に愕然とした。そこは、見慣れたマンションの自室ではなかった。
どこか懐かしい匂い。ぼろぼろになった勉強机があった。私のお気に入りの。そこは、数年前に出たはずの、私の実家だった。
自分の手を見る。セーラー服の袖が見えた。この年にもなってセーラー服なんて、と思わず考えて、ふと、鏡に映った自分自身を見た。
そこには学生時代の私がいた。さっきほどの動揺はなかった。頭のどこかで予想できていたのだろう。
自分の手元を見下ろす。そこには、その当時は持っていなかったはずの『女のしくじり』が握られている。
やり直したい。私は大人だった私の切実な願いを思い出す。つまり、これは誰かがくれたチャンスということだろう。
次こそは。私はぐっと拳を握る。絶対にしくじらない。私は幸せになるんだ。この手で。
しくじっている女
いつからでしょう。「まだ結婚していない」というだけでこんなにも居心地が悪くなってしまったのは。
「まだ結婚していない女性」が「結婚できない女性」、そして「結婚を諦めた女性」と周囲から勝手に囁かれるようになり、焦りと苛立ちを覚えた人も多いことでしょう。
また、近年の「婚活」ブームで、「まだ結婚していない女性」が「もう結婚できない女性」になることを怖れ、受験のような競争率で婚活に勤しんでいます。
しかし、それでも「まだ結婚していない女性」が社会にはあふれています。
本来ならば、仕事も恋も頑張って誰もが憧れるようなかっこいい女性になるはずだったのに、シングルであるというだけで罪悪感を感じてしまう。
そして、両親、上司、既婚の女友達は、容赦なく「手遅れになる前に早く結婚した方がいい」と判決を下してきます。
あまりにも周囲が騒ぐので「結婚」という目標に向けて邁進してみるも、成果の出ない毎日に声にならない悲鳴を上げ、自分のもてなさっぷりに意気消沈してしまう結果に疲れていませんか?
仕事だってきちんとしている。常識もあるし、人に優しくだってできる。なのに、女として、人間として、結婚していないだけで「敗者」のような気持ちになる。
しかし、二十代の頃と違ってなぜこんなにもモテないのか。不思議じゃありませんか?
もしかしたら、みなさんがモテないと嘆いているのは、努力が足りないわけでも見た目がダメなわけでもないかもしれません。
もしも、恋愛におけるちょっとした「しくじり」で不正解を選んでいるだけだったら?
慌てる必要も恐れる必要も悲しむ必要もありません。もう敗者なんて思われないように日々の些細な「しくじり」を学んで敗者復活すればいいんです。
本書では「頑張るわたし」が陥りがちな、大いなる勘違いと落とし穴を「女のしくじり」としてご紹介してまいります。
「女のしくじり」を面白おかしく綴り、あなたの敗者復活のお手伝いをさせていただけたら幸いです。
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