あらゆる武器を使いこなし、軍隊をたった一人で相手取る。鍛え上げられた屈強な肉体と、ゲリラ戦で敵を翻弄する優れた戦略。シルベスター・スタローンが演じるランボーは、本当にかっこいいヒーローだ。
『ロッキー』と並ぶスタローンの代表作とも呼べる『ランボー』は、原作のタイトルを『一人だけの軍隊』という。作者はディヴィッド・マレル。彼が作家としての最初の一歩が、この作品であった。
でも、いったいこの最高にかっこいいヒーローは、いったいどうやって生まれたのだろう。たった一人で軍隊と戦うなんて発想が、どこから出てきたというのか。
いや、ランボーだけじゃない。海外小説には、たくさんのヒーローがいた。彼らはダンディで、優しく、紳士的で、ユーモアに溢れている。
彼らのキャラクターはいったいどうやって生まれたのだろうか。その瞬間の物語を知ることができたなら、どれほど心が踊るだろうか。
とはいえ、まさか著者に直接話を聞くというわけにもいかない。僕はこの胸中で暴れまわる好奇心の蛇を、ひたすらに抑え込むしかなかった。その本の存在を知るまでは。
その本は、『ヒーローの作り方』という。オットー・ペンズラーという人が出版している。なんでも、ミステリ専門のショップや出版社を立ち上げた方であるらしい。
さて、『ヒーローの作り方』の冒頭には、この本がどんな本で、いったいどうしてこの本を作ったのか、その経緯が記されている。
読書人口は減少の一途を辿り、オンライン書店の登場によって書店が経営難に陥ったオットー氏は、困窮から脱するため、とあるアイディアを思いつく。
そうだ、付き合いのある作家先生に、人気キャラクターの誕生秘話を語ってもらったら、おもしろいんじゃないか、と。そうして出来上がったのが、この本である。
ジャック・テイラー。チャーリー・パーカー。リンカーン・ライム。モース警部。アレックス・デラウェア。スペンサー。
果たして、ミステリの偉大な探偵たちが並ぶ中に、ランボーの名もあった。その本には、ランボーの誕生秘話が著者自身の手によってひとつの物語として綴られていたのである。
ランボーが生まれるきっかけは、ベトナム戦争から帰還した学生の経験談であったという。『一人だけの軍隊』として書き上げられたその作品は映画化されて大きな話題を呼び、次々と続編が創られる大人気作となった。
「ランボー」という名前は、名前を決める時にマレルの妻が持っていたランボー・アップルを見て閃いたという。そうして生まれた彼は、やがて代表的なヒーローのひとりとして戦場を駆けることになる。
「Going Rambo!」という言葉は決していい意味ではない。「ランボーのように目茶苦茶に暴れてやる!」という意味である。けれど、その言葉こそが「ランボー」というキャラクターの魅力をもっとも端的に言い表した言葉だと、僕は思うのだ。
アメリカの生み出すヒーローは誰も個性が強い。一見、欠点に見えることすらも彼らの魅力のひとつだ。完璧ではないからこそ、彼らは多くの人に愛されるヒーローとなった。
けれど、その誕生は決して生易しいものじゃない。そこには、作家たちの人生がある。彼らの物語があって初めて、そのヒーローは名を得て、肉を得て、形を持ったのだ。
ヒーローが光ならば、作家は影だ。作家がいるからこそヒーローは生まれるが、作家は決してヒーローよりも前に出てこない。
けれど、その影を見つけることができたならば、私たちはきっと、魅力的なヒーローたちをさらに愛することができるようになるに違いないだろう。
ヒーローはこうして生まれた
不幸な事実だし、まさに悲しい現実としか言いようがないが、アメリカの小売り書店は危機に瀕している。アマゾンや他のオンライン書店の勃興は、レンガとモルタルでできた実際の店の消滅にもひと役買うことになった。
他方、アメリカ人の読書習慣を調査してみると、その結果は気の滅入るような、あるいは背筋が寒くなるような数字になって表れている。
一般的なアメリカ人は、年に平均五冊本を読むという。だが、五冊よりはるかに多く本を読む存在もいるわけだから、平均値を下げている人々はかなりの数にのぼることになる。
経営難に頭を悩ませていた矢先、少しちがった企画を思いついた。作家たちの書いているシリーズものの主人公の誕生記とか人物像とかを書いてもらったらどうだろう、と思ったのだ。
このシリーズを開始してから二年以上たつが、この企画は未だに続いている。これまでに書かれたエッセイやストーリーを一冊にまとめれば、もっと広い読者層に届けられるだろう。そういう思いから『ヒーローの作り方』ができあがった。
本書に登場する人物たちの名前を見ただけでも、きっと期待に胸が膨らむ。傑出した才能を持ち、創造力豊かな作家たちが、今まで知られていなかった創作秘話の数々を彩り豊かに語っているのだから。
誕生記の逸話が披露されていたり、登場人物のインタビューがあったり、作家の日常生活や創作活動、さらには執筆途中に思いついてたびたび登場人物に反映されたひらめきなどものぞき見たりできる。
すばらしい登場人物たちのスケッチ的紹介を楽しんでほしいと願ってはいない。楽しんでくれるに決まっているのだから。
関連
探偵小説の歴史を辿る『娯楽としての殺人』ハワード・ヘイクラフト
『モルグ街の殺人』から始まって現代に至るまで、数多くの探偵小説が生み出されてきた。多くの人の頭を悩ませ、楽しませたそれらの歴史を、辿っていこうではないか。
探偵小説が好きな貴方様におすすめの作品でございます。
破ってはならないミステリの約束事とは?『書きたい人のためのミステリ入門』新井久幸
ミステリにはいくつもの約束事がある。ミステリを書く上で、それらを無視することはできない。では、その約束事とは何か。ミステリの名作を例として交えつつ、ミステリの書き方を指南してくれる一冊。
ミステリを書きたい貴方様におすすめの作品でございます。
書きたい人のためのミステリ入門 (新潮新書) [ 新井 久幸 ] 価格:836円 |