ドストエフスキーの『悪霊』を読んだ時、ニヒリズムに興味を抱いた。ニヒリズム、つまりは虚無主義。調べてみると、その作品に影響を受けた人がいるのだという。その名を、フリードリヒ・ニーチェといった。
ニーチェといえば、「神は死んだ」という言葉が有名である。調べる前の私も、それくらいは知っていた。迷惑客に対する巧みな返答をするコンビニ店員を描いた『ニーチェ先生』という作品が人気になったからだ。
「神は死んだ」という言葉は、ニーチェの著作『ツァラトゥストラはかく語りき』に出てくる言葉である。彼は当時は常識とされていた神の存在を否定し、キリスト教を嫌っていた。
だからか、生涯にわたって神の存在を考え続けてきたドストエフスキーの『悪霊』では、ニヒリズムは「悪」として扱われている。ニーチェは世間の常識や、それ以前の哲学といったあまりにも大きなものを、根底から覆そうとしたのだ。
ニヒリズムに魅せられた私は、彼に興味を持った。そこで図書館から借りてきたのが、富増章成先生の『図解でわかるニーチェの哲学』である。
タイトルの通り、かわいらしい図と文字で説明してもらえるから、小難しい引用があったとしても、普段ならチンプンカンプンな哲学の話もわかりやすく、すぐに理解することができた。
彼のことを知ったことで、私の中にあったニーチェのイメージは大きく変わった。かつては虚無主義というところから捻くれた人という印象があったけれど、今の私の中の彼の印象は、「すごくポジティブな人」である。
ニヒリズムは、「人生には何の意味もないし、目的もない」と考える哲学だ。しかも、それは永遠に繰り返されていて、終わることがない。心の弱い人が聞けば、思わず絶望してしまいそうなくらいには残酷な見方を、ニーチェは突き付ける。
これだけで終わらせてしまえば、私の元々抱いていた印象のニーチェそのままだけれど、彼の哲学には続きがあった。
人生には何の意味もない。だが、だからこそ、嫉妬に囚われず、自分自身で価値を創造し、自由な精神で逞しく今の人生を生きよう。ニーチェはそう言っているのである。彼はその存在を「超人」と呼んだ。
ニーチェは数多くの苦難を味わってきたという。恋する人との失恋、友人との決裂、書いた文章は売れず、最後には精神が錯乱して狂気に呑み込まれた。
そんな人生の中でも彼は、「超人」を目指して前に歩き続ける思想を生み出したのだ。その前向きさこそが、彼の思想が愛されるようになった所以なのだろうと思う。
キリスト教みたいに死後に希望を見出すのではなく、ニーチェは、今を全力で生きることを提唱した。彼の思想は、人生が理不尽で残酷なことを肯定しながらも、それに真っ向から立ち向かうための勇気をくれる。
人生に意味なんてない
毎日がなんとなく不安。生きる意味が見いだせない。物事を悪く解釈して、暗い気分になる。人間が生きていく上で、こういった悩みは避けて通ることができません。
だからこそ、長きにわたって、多くの哲人たちがこれらの問題に向き合い、考え抜き、答えを求めてきたのです。それぞれがひとつの考え方なので、各人がどれを支持してもかまわないでしょう。
けれども、ニーチェという哲学者は、今までとはまったく異なるアプローチの仕方で、人生の意味について追求したのです。
ニーチェは「何のために生きるのか?」という問いの答えは存在しない、つまり人生には究極的な意味がないとハッキリ宣言してしまいました。
でも、彼はちゃんとその先に壮大なフォローを入れてくれました。すなわち、「人生に意味はない」と宣言したうえで、「では、その無意味な人生にどうしたら新しい価値を与えることができるのか?」と考えたのです。
人生は苦悩に満ちていて、先も見えず、不安だらけで、その存在自体の理由が見いだせない。もともと生きる意味はなかったから。けれども、そこに新しい価値を与えれば、生きるための強い力がわいてくる。
では、その新しい価値とは何なのか。ニーチェはそれを「超人」と呼びました。
超人とはいかなる苦しみにも耐えて、その人生を肯定するという仮想的な存在です。ニーチェの哲学を学ぶことによって、今の苦しみを耐え抜き、自身を鍛え、自己超克していこうと努力をすることができます。
ニーチェの教えを知れば、自分の弱さから強い者を逆恨みする心や、自分自身を卑下するやましい気持ちもなくなります。
まだ起こってもいないことにクヨクヨ悩んだり、すれに終わってしまったことを引きずっていくのは、耐えがたい人生ですが、ニーチェの哲学で、そういった気持ちを少しでも軽くすることができるかもしれません。
強い心のコンディションをつくるには、ニーチェの哲学が有効です。暗い気分になって得することはひとつもありません。だったら、ポジティブな考え方を選ぶべきです。本書はそんな前向きなあなたを応援します。
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