ストーリーで楽しませる『雑談力』百田尚樹


昔から口下手だった。会話が苦手で、二人だけで話している時なんて、どうしても無言が生まれてしまう。「お前と話すのはつまらない」と言われ、ずっとひとりぼっちだった。

 

何かしら用事があれば、話はできるのだ。会話できないわけじゃない。でも、話題を見つけるのが下手だった。話の流れの持っていき方も、下手だと言われた。

 

どうしてみんな、上手くできるのだろう。いったい誰に教わったのだろうか。ただ話をするだけのこと、みんなは特に意気込むわけでもなく自然にできている。自分はどこかおかしいのではないかと思ったことすらある。

 

これではいけない、直したい、僕もみんなと楽しく会話したい、と思っても、雑談が上手くなる方法なんて、いったいどうすればいいのか、まるで見当がつかなかった。僕は途方に暮れた。

 

その本を見つけたのは、そんな時だった。百田尚樹先生の『雑談力』。百田尚樹先生の作品はいくつか読んだことがあるけれど、こんな本も出していたとは思わなかった。

 

その本には、先生が雑談をする時に使っている技術や、人の興味を惹くことができるような面白い話題がいくつも書かれている。

 

驚いた。それは会話ではなく、文章で書かれたものだ。にもかかわらず、それはまるで百田先生が語りかけてくれているような感覚だった。

 

そのうえ、提示されている話題も、どれも面白い。早く先が読みたい、と、ついつい先のページまで読んでしまう。結末が気になって、ページをめくる手が止まらない。

 

話題の魅力だけじゃない。百田先生の話の運び方が上手いのだ。ちょっとした話であっても、そこには確かな物語があった。

 

意外に思ったのは、先生が本当にいろいろなことを考えながら話をしているということだ。話題にしているものとは別として、どうすれば面白くなるか、どうすればみんなの注意をひくか、というようなことを。

 

僕は、話が上手い人のことをただの才能だと思っていた。口が上手く、流暢で、たくさんの話題を持っている。話の上手い下手は生まれつきのことだと信じていた。だが、違ったのだ。

 

みんな、それぞれ、頭の中でいろいろ考えている。そして、ようやく出た答えを口から吐き出しているのだ。その一連の流れを凄まじいスピードで行っている。

 

僕は途端に恥ずかしくなった。僕なんて、会話が上手くなりたいなどと言いながら、「会話」についての実用書を読んだのは今日が初めてである。

 

世の中の話が上手い人たちは、回数や経験を重ねていくことで、ようやく今の水準に至っている。そしてなおも、情報の取捨選択をして人と関わっているのだ。

 

僕もまた、そんな人間になりたい。そう思った。

 

 

雑談を楽しませる力

 

「楽しい話で、場を盛り上げたい!」「仕事相手や友人が喜ぶ話がしたい!」「大勢の前で、面白い話を披露したい」口には出さなくても、心の中でそんなことを思っている人は多いと思います。

 

どんなグループにも必ず一人か二人、話の上手い人がいます。彼(彼女)はいつも皆が喜ぶ話をし、場の中心にいます。そして人気もあります。

 

私は決して話が上手というわけではありません。でも、こんな私の話を聞きたいと言ってくださる方もいて、今でも年間に四十回くらい講演をしています。

 

ただ、この本を手に取ってくださった皆さんが、何百人もの聴衆を相手に話すということはあまりないと思います。皆さんが日常的に話す相手は、数人からせいぜい十数人だと思います。

 

実は話というものはそれくらいの人数を相手に話す時が一番楽しいのです。リアクションは直接跳ね返ってくるし、ツッコミや質問もどんどんやってきます。話し手にとって、こんなに楽しいことはありません。座談の面白さはここにあります。

 

ただ座談の中心になるのは簡単なことではありません。自分の話で皆を引き付けるには、当然、皆の興味を惹く話をする必要があります。

 

私が六十年生きてきて学んだ、私なりの「話し方のテクニック」「話題の選び方」「話をする際に気をつけること」などを書きました。皆さんが「座談」をする時に、何らかのお役に立てれば嬉しく思います。

 

 

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