戦争はいけないことだと、誰もが言っている。それなのに、どうしてこの世界から戦争がなくならないのだろう。
そこは厳かな雰囲気に包まれていた。足を踏み入れると、重たい静けさに押し潰されそうになる。
広島県の平和記念公園。青空の下に広がる緑色の公園は、まるで別世界であるような不思議な雰囲気だった。
これはぼくらの叫びです。これは私たちの祈りです。世界に平和を築くための。そこにはたくさんの折り鶴がかけられていた。
女の子の像が、見えない瞳で、空の向こう側を見つめている。佐々木偵子。彼女のことは学校の授業で習ったことがあった。
戦争についての授業は嫌いだった。祈りも届かず亡くなった彼女や、戦渦に巻き込まれて被害に遭った人たちに、何の興味も抱けなかった。
何より、彼女たちの最期を哀しまなければならないとでも言うような、言葉にされない雰囲気が、私は嫌いだった。
戦争が良いことだとは決して思わない。しかし、どうして何の関係もない人たちの最期に同情しなければならないのか。
むしろ、その同調意識の結果ともいえる中身のない同情には、どこかお芝居めいた滑稽さすら感じていた。
私たちは戦争なんて知らない。そんな私たちが、さも知ったような顔で「かわいそう」だと思うのは、彼女たちに対する侮辱になるのではないか。
私はそんなことを思っていたのだ
しかし、平和記念公園を訪れて、私は声を出すことができなかった。穏やかな風景でありながら、それはどこか退廃的な静けさを醸している。
それは視界の隅に映る巨大な建物のせいだろうか。原爆ドームと呼ばれるその建物は、鉄骨を剥き出しにして、凄惨な姿を晒している。
私は声を出すこともできず、目を離すこともできず、ただ静かにその建物を見つめていた。
圧倒されていた。そこには、ほんの数十年前の出来事とはとても思えないような歴史の重みと、かつてたしかにそこにあり、そして失われた命の残滓があった。
それは人類が侵した最大の罪の墓標なのだ。人間の愚かさが、原爆という最悪の結果を選択させた、その証拠。
戦争は、なくさなければならない。その時、私は不意に、そのことを強く感じた。
どうして戦争がなくならないのか?
『トライピース』を読み終わって、私は本を閉じた。ううんと首をひねって、思わず考え込む。
友人から教えてもらったその作品は、戦争をなくそうと奮闘する少年の物語だ。
記憶喪失の彼は、町で知り合った友人を戦争で失くしてしまう。そのことがきっかけに、彼は戦争をなくすことを志すようになる。
そして彼が出会ったのは、戦争をなくすことを目指す機関『トライピース』。彼はそこに所属し、同じ志を持つ仲間たちと共に戦う。
バトルものの少年マンガといった感じだけれど、きれいごとに逃げていないところに好感が持てた。
ニュースを見れば、どの国も「平和のために」云々などと言っている。けれど、彼らの机の上にはいつだってミサイルの発射ボタンがあるのだ。
彼らが本当の意味での平和を望んでいないとは言わない。世界大戦で学んだことは今でも戒めとして生きている。
しかし、誰もが戦争をなくそうとしているにもかかわらず、戦争はなくならない。どうしてだろうか?
憎しみを憎しみで返す。憎悪の連鎖が戦争を生む。『トライピース』では、そんな考え方もあった。けれど、そうだろうかと私は思う。
戦争は世界規模で行われるビジネスのひとつだ。そこで重要になるのは感情ではなく利益だろう。
国を興すため。勝利による金を得るため。土地を得るため。美辞麗句でどれだけ飾っていても、その根底にあるのはどこまでも実利の世界だ。
誰もが戦争をなくそうとしても戦争がなくならないのは、ビジネスの手段として選択肢のひとつに数えられているからだ。
表立って選ばれることはない。損失を考えたら合理的じゃないから。でも、選択肢から消えることは決してないのだ。
かつて、それは常識だったから。そして、未だにその手段しか知らない国があるから。
戦争がなくなることはないだろう。自分の中の常識を変えることが難しいように、世界はかつて常識として行われていた戦争を捨て去ることができない。
戦争をなくすことはできない。それが私の至った結論だ。けれど、もしも戦争がなくなるということを期待するならば。
私たちに本当に必要なのは、作品の中でテーマとなっている『愛』と『平和』なのかもしれない。
少年はその日、誓った
記憶を失い、自分の名前すらも忘れてしまった少年は、自分のことを名無しのナナと名付け、右も左も分からないひとり旅の末にようやく町に辿り着いた。
しかし、そこで背後から襲撃を受ける。襲ってきたのは、二人の姉弟だった。
二人はナナのことを隣国の機械帝国ザイエスの人間だと誤解し、襲撃を仕掛けてきたのだった。
長女のイチカと次男のニル、彼らは半年前に爆発事故を受けてケガを負い、先の長くない身体となった三女のサンテのために星水を手に入れようとしていた。
星水とは、この世のありとあらゆる病気やケガを一瞬にして治す秘薬のこと。しかし、手に入れるためには莫大な金がかかる。彼らがナナを襲ったのは、そういった事情があった。
三人はナナの提案で、ザイエスの星水保管庫から星水を盗むことにする。忍び込むことには成功したものの、機械兵に追いかけられることになった。ナナは二人を先に行かせ、自分はひとり機械兵に立ち向かう。
一方、イチカとニルは愕然としていた。保管庫には、星水がひとつもなくなっていたからだ。二人はそこで、衝撃の話を耳にする。
神掃計画。それは機械帝国ザイエスによる世界征服の計画だった。彼らは戦争の一歩として、隣国であるイチカたちの国を狙う。
ひとつだけ落ちていた星水を手に入れ、どうにか機械兵を退けたナナとともに三人は家に帰るも、町は荒らされ、凄惨な状態だった。
イチカたちの家は無残に破壊されていた。しかし、瓦礫に隠れていたサンテの姿を発見する。安堵に満ちたその時、空に何かが打ち上げられた。
次の瞬間、巨大な爆発が町を呑み込んだ。
荒れ果てた町でナナは目を覚ます。彼は、偶然にも近くに落ちていた星水を飲むことで生き延びたのだった。
ナナはこれで助かる、と、倒れているイチカたちにも星水を飲ませる。しかし、三人は目を覚ますことはなかった。
三人は命を落としていた。絶望に暮れたナナは、彼らとの約束のために、ひとつの決意をした。
オレがこの世界から、戦争をなくしてやる。
価格:440円 |
関連
表現の自由のために戦い続ける図書館員たちのSFミリタリー『図書館戦争』有川浩
メディア良化法が制定され、全てのメディアは検閲の危機に晒されることになった。メディア良化委員会に対抗する図書館員の笠原郁は、エリートと言われる図書特殊部隊に配属されることになった。
表現の自由を守りたい貴方様におすすめの作品でございます。
図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫) [ 有川 浩 ] 価格:733円 |
日本は大東亜で敗北を喫した。それは日本軍の持つ組織上の欠陥が招いたものだ。そして、その負の遺産は、今現在の企業に至るまで脈々と受け継がれているのだ。
経営者の貴方様におすすめの作品でございます。
失敗の本質 日本軍の組織論的研究 (中公文庫) [ 戸部良一 ] 価格:838円 |