常識を覆すSFロボット作品の異端児『新世紀エヴァンゲリオン』貞本義行


 人類のために戦え。もしも、そう言われたなら、僕はいったい、どうするだろうか。

 

 

 『新世紀エヴァンゲリオン』という作品を思い出す。友人から「すごいアニメがあるから」と勧められるままに見た。

 

 

 すごいアニメ、というよりは、よくわからないアニメ、というのが、その作品を見た時の僕の正直な感想だった。

 

 

 ロボットだとかはあまり好きではないのだけれど、その作品は少し違うように思えた。だからといって、好きになったというわけでもないけれど。

 

 

 物語は最初のあたりこそわかりやすかった。用語の意味はともかく、展開はまさしくロボットアニメって感じ。

 

 

 けれど、物語が進んでいくにしたがって、展開はより複雑に、より混沌の中へと迷い込んでいくようだった。

 

 

 最後まで見終わった時、思わず放心してしまった。思い返してみても、とうとう何もわからないまま終わってしまった気がする。

 

 

 人類補完計画とは何か。使徒とは何か。エヴァンゲリオンとは何か。結末はどうなったのか。何もわからなかった。

 

 

 最終話なんて、本当にどうしてこうなったんだろうとしか思えない。抽象的すぎて、理解することすら難しかった。

 

 

 ロボットアニメは戦って、かっこよく敵を倒す。それを繰り返すようなものだと思っていたけれど、この作品はそんな僕の中の常識を覆した。

 

 

 ロボットアニメどころか、今まで見てきた作品の中でも、これほど異質な作品はなかった。

 

 

 けれど、だからこそ、この作品は高い評価を受け、社会的な人気を得たのだろう。謎に満ちているからこそ、惹かれ、魅了される。

 

 

 この中には人を惹きつける何かがある。そう思わせてくれる作品だった。けれど、それが何なのか、僕にはわからない。

 

 

十四歳の葛藤

 

 人類のために戦え。そう言われて、すんなり頷けるだろうか。いや、できやしない。

 

 

 主人公のシンジくんは十四歳の少年だ。内向的で、臆病な、普通の少年。僕がシンジくんの立場だったなら、すぐに逃げ出していただろう。

 

 

 僕にはこの作品を理解しきることなんてできない。けれど、思い悩むシンジくんの葛藤だけは、想像することはできる。

 

 

 父に認めてほしいだけなのに、父は自分を見てくれない。愛してくれない。父の言うとおりに、こんなにもがんばっているのに。

 

 

 みんなを守りたい。自分の大切な人たちを守りたい。でも、そのためには痛い思いをして、戦わなければならない。

 

 

 彼の抱える葛藤は、複雑で、不安定だ。迷い、揺れ動き、思い悩み、そして、迷いを抱いたまま、戦い続ける。

 

 

 いや、もしかすると、それこそがこの作品の本質なのかもしれない。十四歳の少年の心象そのものが。

 

 

 複雑で、混沌とした心象風景。最終話は彼の内面を描いているらしい。むしろ、その中にこそ、この物語に秘められた「何か」があるのではないか。

 

 

 逃げちゃだめだ。いろんなものを抱えて、けれど、彼は結局、なんと言おうと逃げずに立ち向かうのだ。

 

 

 使徒に。エヴァに。父に。そして、自分自身に。

 

 

 その作品は彼に厳しい世界だ。認めてもらえず、責められることもある。けれど、僕は彼の勇気をすごいなと思う。逃げてもいいのに、誰かのために戦った彼の勇気を。

 

 

少年は悩み、怯えながらも戦う

 

 僕には将来なりたいものなんて何もない。夢とか希望のことも考えたことがない。

 

 

 十四歳の今までなるようになってきたし、これからもそうだろう。だから、何かの事故に遭ってしまっても別に構わないと思っていた。

 

 

 ――てなことを作文に書いたら、案の定「まじめにやれ」と先生に怒られた。

 

 

 父はいったい今になって何の用があるというのだろう。十年以上も僕を伯父の家に預けたままほったらかしだったというのに。

 

 

 迎えに来てくれるのは、父の知り合いの葛城という女性らしい。しかし、待ち合わせ場所に辿り着くまでに、思いもよらないことが起こった。

 

 

 緊急警報が発令されたのだ。電話も電車も使えなくなった。仕方なく二駅ほど歩こうとするが、空を見上げると、巡航ミサイルが飛来しているのが見えた。

 

 

 そのミサイルが向かう先にいたのは、ビルよりも巨大な人型の怪物だった。ミサイルが当たってもびくともしていない。

 

 

 その怪物の腕の一振りで、飛んでいる戦闘機が破壊され、墜落する。その爆風が僕に迫っていた。

 

 

 その時、一台の車が爆風を遮り、僕を守ってくれた。扉が開き、ひとりの女性が顔を見せる。

 

 

「お待たせ、シンジ君! こっちよ、早く乗って!」

 

 

 それは待ち合わせの相手である葛城ミサトだった。車の中で、彼女からあの怪物は”使徒”というのだと知らされる。

 

 

 特務機関ネルフ。国連直属の非公開組織。彼女はその一員だということらしい。そして、僕を呼び出した父もまた。

 

 

 父がなぜ僕を呼んだのか、もっと深く考えるべきだった。少なくとも再会を喜び合うために呼ばれたのではないとわかっていたのだから。

 

 

 ネルフ本部に連れていかれた僕は、案内された先で巨大な人型を目にする。人類の最後の切り札。人造人間エヴァンゲリオン。

 

 

 十年ぶりにようやく会えた父が、僕を見下ろして冷たい声で言う。

 

 

「シンジ、私が今から言うことをよく聞け。これにはお前が乗るのだ。そして”使徒”と戦うのだ」

 

 

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