私、宇宙人なんですよ。といっても、地球で生まれたんですけどね。家族の中で、私だけが宇宙人なんです。
ああ、すみません。突然こんなことを言われても、わからないですよね。うっかりしていました。
説明しましょう。といっても、私が宇宙人だと自分のことを称するのは、まさにその説明に理由があるのです。
私、説明するのが苦手なんです。ええ、それはもう。目の前のものをわかりやすく伝えるというのが、どこか他の人たちとズレているみたいで。
たとえば、ですよ。「リンゴ」を説明しようとする、としましょう。あなたなら、どういうふうに説明しますか?
ほとんどの人は、「赤くて丸くて甘い果物」と言いました。けれど、私の答えだけ違っていたんです。
「丸をギュッと潰した感じの、黄色い果物」
それが、私の答えでした。他の子どもたちは首を傾げて、先生たちも苦笑していました。けれど、私はかなり真面目に考えたんです。
「リンゴ」ってきれいな丸じゃないでしょう。なんか、丸の上下を人差し指と親指で潰したような形をしていませんか? していますよね?
それに、外側の皮はたしかに赤いかもしれませんが、肝心の食べるところは黄色いじゃないですか。味については、甘いのも酸っぱいのもあるので、言及しませんでした。
ね? 私、間違ったことを言っていますか? 言っていないはずです。でも、私の言葉は誰にも通じなくて、私は次第にひとりぼっちになっていったんです。
そんな私が変わったのは、中学生の頃でした。担任の先生は年老いた穏やかなおじいさんだったんです。
先生は、クラスで孤立していた私を心配していたみたいで、こっそりと面談を設けたんです。
「何か、悩みでもあるのかな?」
先生はそう聞いてきました。当時の私はもうすっかり言葉への信頼をなくして、あまり話さない、寡黙な人間になっていました。
けれど、その先生の穏やかな口調は、私に話してみてと促すようでした。私はその瞳を、もう一度信じてみようという気になったんです。
「私、宇宙人なんです」
私の独白は、そんな言葉から始まりました。ええ、普通の教師なら、この時点でふざけていると面談を切り上げるでしょうね。
けれど、先生はじっと目を閉じて、私の言葉を聞いていました。それで、私もたどたどしいながらも、自分なりに言葉を尽くして先生に伝えようとしたんです。
私だって説明が上手になりたい。誰にも理解されないのは哀しい。誰かに理解してほしいんだ! そんな思いを込めて。
先生はうんうんとゆっくり頷きながら、私の説明を聞いてくれました。そして、私が話し終えると、ゆっくりと目を開けて、にこりと微笑むと、言ったんです。
「君に、薦めたい本があるんだ」
彼がそう言って渡してきたのは、一冊の本でした。タイトルを見ると、『説明上手になる表現術』と書いてあったんです。
それを見た時の私の嬉しさと言ったら。だって、この本を私に勧めてきたことが、まさに私の説明が通じた証拠だったのですから。
早速、私はその本を読み耽りました。会話の中で発生する勘違いや齟齬。それは、「壁」があるからとのことでした。
相手と自分を隔てている認識の壁。けれど、誰もがその壁に気付かず、そのまま話しかける。だからこそ、理解し合うことが難しいのだとか。
その壁は、私がずっとみんなとの間に感じていたものでした。とうとう私は、その正体がわかったのです。
相手と理解し合うには、相手の立場に立つこと。つまり、自分の側から相手の感情を想像するのではなく、相手の立っているのと同じ場所に立つこと。
それが、理解し合うことの第一歩なんです。ちょっと難しいですけどね。まだ私も訓練の最中です。
「完全に人と人が理解し合うことはできないだろうね。相手の心が読めるでもない限り。でも、そう割り切ったら、もっと世の中は生きやすくなると思うよ」
先生はそう言っていました。理解は、相手と自分の間の齟齬をどれだけ減らすことができるかにかかっています。
でも、私はもう、自分のことを宇宙人だとは言わなくなりました。人間であるからこそ、私たちは互いに、相手のことを理解しようと耳を傾けることができるのです。
説明上手になるために
「正直に話せばきっとわかってもらえるよ」「一生懸命がんばって伝えようとしたんだから、それでいいじゃないか」
どれもどこかで見たようなセリフの数々。でも、みんな本心ではこんなこと考えてないでしょ。
叶わなかったことを素直に悔しがり、反省し、分析し、次回に活かそうとするのではなく、まるで最初からそれ自体は目的ではなかったかのように思い込もうとする。
伝わらなくたっていい、そう思っているうちは伝わりません。伝わらなくたっていい。ほんとにそう思ってますか?
ほんとは、いいなんて思っていませんね。理解してほしい、そう思っていらっしゃるはずです。だったら伝えましょう。理解してもらいましょう。
以心伝心という言葉があります。そう、思いが伝わるということはとても気持ちの良いこと。幸せなこと。建設的なこと。
物事は何でもコツを掴めばうまくいくもの。
実は人にモノを伝えるにもコツがあります。反対側から考えれば、うまく人にモノを伝えられなかった人には、コツが欠けていたとも言えます。
この本ではそのコツについて知らなかった貴方の立場に立って、できるかぎりわかりやすい喩えを用いて、具体的な例を豊富に盛り込んでお話します。
そして読み終えた頃には、自分に欠けていたものが何だったか、そしてそれを克服するにはどうすればいいかが、はっきり見えていることでしょう。
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