最近、私の友人がマッチングアプリを始めたという。アプリに登録された情報をもとに、お似合いの相手を選んでくれるというアレ。彼を応援しながらも、私はどうにも、不信感を拭い去れないでいる。
昔からいわゆる「出会い系」というものはずっとあるけれど、その名称は一種の蔑称というか、危険の伴う胡散臭いものとして思っていた。
ネット上でのみ知っている関係というのは、かつてはなかった奇妙な人間関係だ。リアルでは言えないような悩みを打ち明けられるような相手となっても、顔も本名も知らない、ということは珍しくない。
だが、ネット上での自分は簡単に偽ることができる。人格も、年齢も、性別すらも。そのせいで、「出会い系」は犯罪の温床みたいな扱いにもなっている。
マッチングアプリと「出会い系」は、違うものであるらしい。いわく、匿名で登録可能な「出会い系」と違い、マッチングアプリは匿名性が低く本人登録が必要となる。
なるほど、たしかに、それだけでもずいぶん違うだろう。どうやら、真剣に出会いを求めている男女も多く登録しているらしい。まあ、社会人になると自分からそういう場に行かない限りは出会いなんてないし。
そんな折、ちょうど良いというべきか、『オルタネート』という作品が話題になっていたので読んでみることにした。著者は加藤シゲアキ先生。
タイトルにもなっている「オルタネート」とは、作中の世界で人気になっている高校生限定のマッチングアプリである。物語は、高校生の年齢の三人の男女を中心に描かれていく。
大阪の高校を中退したバンドマンの尚志のなりふり構わない情熱や、料理の大会で勝利を目指すために力を注ぐ新見の奮闘など、それぞれの物語に高校生ならではの青春が描かれていて、思わず手に汗握った。
けれど、私が一番気になったのは、もうひとりの主人公、伴凪津のストーリーだった。なぜかというと、他の二人に比べて、彼女のストーリーだけ、マッチングアプリとしての「オルタネート」が密接に関わってくるからだ。
凪津は「オルタネート」を信奉している女生徒で、クラスメイトの相談にも乗れるくらい、「オルタネート」の機能について熟知している。
彼女は、「オルタネート」に新しく追加されたサービス、「遺伝子による相性診断」を利用して、自分にぴったりの相手を探すことにした。
遺伝子を登録し、結果が出る。見つかった相手との相性は、今までとは比べ物にならないくらい高い数値だった。彼女はさっそく、その相手とメッセージのやりとりをし、出会う約束を取り付ける。
アプリの結果を何よりも信じるという姿勢は、私には受け入れがたいものだけれど、今のような時代になると、そんな価値観も出てくるのだろうなあ、と。こうしてみると自分が古い時代の人間なのだといやでも実感してしまう。
凪津のような人こそ、まさに私の思う「現代の高校生」の姿そのものだった。そして、彼女もまた、「オルタネート」を通して人間としての成長を果たしていく。
ネット上で文章を書いていると、それが本来の自分ではないことを突き付けられるかのよう。できるだけ本当の自分でありたいとは思っていても、どうしても飾ってしまうところがある。
自分が何より見られたくないような、ありのままの汚い自分を曝け出すという勇気。まずはそこから始めなければ、本当の「マッチング」なんてできないんじゃないかと思う。
ただ、彼ら彼女らの辿った結末は、私なりに感じ入るところがあった。成長した彼らは、「オルタネート」をやめたり、「オルタネート」を新しく使い始めたりしている。
結局、「オルタネート」も、現実にあるSNSやマッチングアプリも、ただのツールに過ぎない。それらは手助けをしてくれるだけで、本当の意味で「つながる」のは、私たち自身が一歩を踏み出さないといけないのかもしれない。
オルタネート
オルタネート おるたねーと alternate オルタネート おるたねーと alternate――
伴凪津は頬杖を突きながらまだほとんど白紙のノートに、繰り返し文字を書いた。文字で埋め尽くされたノートよろしく、凪津の頭はオルタネートでいっぱいだ。
高校生限定SNSアプリ「オルタネート」では、お互いがフロウを送り合うことでコネクトとなり、メッセージなど直接のやりとりが可能になる。
ユーザーが指定した条件に合わせて相性のいい人間をレコメンドしてくれるオルタネートは、仲介人の役割を持つ代理人だ。
登録には個人の認証が必要で匿名性がなく、利用条件も高校の入学式から卒業式までとなっていることから、不審な人物が紛れ込むということはなかった。
時間が経つにつれ、その安全性が証明されていき、今ではダウンロード必須の人気アプリとして確固たる地位を築いている。
このクラスの目立つ存在があまりいないのは、凪津にとっては幸運だった。それこそかっこいい男子に一目惚れなんてしてしまったら、せっかく誓った信念が崩れてしまう。
外見に騙されてはいけない。データに裏打ちされたもの以外、信用しない。凪津は高校に入る前から、そう自分に言い聞かせていた。
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