視力を全て失った人の目には、世界はどのように見えているのだろう。彼らはいったい何を感じ、何を思いながら生きているのだろうか。
そんなことを考えるようになったのは、つい最近のことである。真っ暗な、何も見えない部屋で、手探りで電気のスイッチを探していた時にふと思ったのだ。
私自身も近視ではあるけれど、当然ながら「見えない」ということはない。眼鏡をかければはっきりと見えるし、裸眼でもぼんやりとならば、何があるのかはわかる。
だが、視力を全て失ったら、それすらも見えなくなる。そして、そんな人たちは、それでも生きていかなければならないのだ。
失礼を承知で言わせてもらうならば、私は以前まで、そんな人たちのことを「障碍者」として一種の憐れみを抱いていたし、「かわいそう」と思っていた。その認識が変わったのは、一冊の本を読んでからのことである。
『目の見えない私が「真っ白な世界」で見つけたこと』。著者である浅井純子先生は後天的に全盲になったらしい。
私たちにとって「目が見えない」状態は真っ暗な暗闇の世界のように思えるが、人によって違うとのことで、浅井先生の世界は真っ白なのだそう。
私はこの本を読んで、今までの自分の中での「視覚障碍者」というイメージが大きく変わるのを感じた。
何しろ、明るいのである。むしろ私などよりもよほどポジティブな考え方をしている。見えなくなってから体験した嬉しい出来事が、自然体で書かれていたのだ。
もちろん、そこに至るまでには、本人の中で割り切るまでに大きな葛藤があったろう。目の病気で視力を失っていく過程は、読んでいてつらくなってくる。
しかし、それらを全て乗り越えて、視力を失ってもなお、試行錯誤しながらしっかりと前を向いて進んでいく姿は、見えている私などよりもよほど堂々と未来を見据えているのだ。
この本をきっかけに、視力障碍者についての本や、視力障碍者が登場する物語をいくつか読んでみた。
中でも印象的だったのは、谷崎潤一郎先生の『春琴抄』である。琴の名手であるが視力を失っている春琴と、彼女にひたむきに仕える少年の物語だ。
彼は最後まで春琴に献身し、結末ではあろうことか、春琴のために自ら目を刺して視力を失ってしまう。
しかし、彼に悲壮感はない。それどころか、彼は春琴と同じ世界を見ていることを喜び、「見えていた頃よりもよく見えるようになった」とまで言うのである。
それだけでなく、物語に登場する視力障碍者は、不思議なことに、悲壮感を漂わせているような人物がほとんどいない。そしてそれは、どうやら物語の中だけではないらしい。
とある本曰く、目の見えない人たちは、目の代わりに別の場所で世界を「見ている」のだという。彼らにとってもっともショックなのは、周りの人たちが自分に対する対応を「障碍者に対するもの」に変えてしまうこと、とのことだ。
浅井純子先生が盲目でありながら本を執筆したように、多くのことに挑戦する視力障碍者はたくさんいる。とある人はなんと、絵画鑑賞すらするのだというのだ。
彼らに対して憐れみを持って接するのは、間違いであった。彼らは彼らなりの方法で世界を見て、彼らなりに生きている。ともすれば、私たちよりもよく世界を見ている。
だから、彼らが憐れみを持たれるのは、目の見える者としての傲慢ですらあるのだと、この本を通じてようやく知ることができた。恥じ入るばかりである。
彼らに対して、どう接するべきか。それを私たちは、よく考え直さなければいけないのかもしれない。
真っ白な世界
「人生をやり直せるなら、いつに戻りたい?」と聞かれたら、「いまがいちばん良い!」と即答できるくらい、楽しい人生を歩んでいます。
そんな私の人生に、またひとつ、新たな楽しみが増えました。本の執筆です。視覚に障害を患ってから全盲になるまで、そして、見えなくなってからの人生を振り返る機会をいただいたのです。
私は30年間、健常者として生きてきました。そして、18年間、視覚障碍者として生きています。いまは重度障碍者です。健常者と障碍者、どちらの気持ちもわかります。
重度障碍者と聞くと暗いイメージを持つかもしれませんが、笑えるエピソードもたくさんあります。本を読んでいただき、明るい気持ちになっていただけたら嬉しいです。
本を書き終わって感じたことは、私の心の中に「ネガティブ」という感情はないのかも、ということ。
私はマイナス面だけを見ることなく、ポジティブに人生を歩んできました。そのことをさらに実感する経験でした。
私自身、自分の生き方に後悔はありませんし、変えるつもりもありません。失敗したとしても、その失敗を乗り越えるからこそ、また新たな人生がやってくる――
これからの人生も、笑顔があり、喜びがあり、楽しみがあります。もちろん、苦悩や挫折もあるかもしれません。でも、それは人生においてすべてが大切なこと。
これからも自分らしく、私は一歩ずつ地面を踏みしめ、歩いていきます。
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