青春、なんて聞くとやたらと輝かしい、眩しいもののようにも見えるのだけれど、いったい誰が言い出したのだろう。
そんなのは、その時間が過去になってしまった大人たちが、実際にはそうでもなかった記憶を美化しているだけなんじゃないかと思うのだ。
まさしく今、青春真っただ中にいる私からしてみれば、青春なんてそんなきれいなもんじゃない。むしろ、これほど汚いもんじゃないだろう。
青春なんてドロドロだ。輝いてるどころか、ヘドロに塗れている。青なんかじゃない、真っ黒だ。
私は自分の机に書かれた落書きを見下ろしながら、そんなことを思った。そこには、下品ななじり言葉や罵詈雑言が書き殴られている。
クスクスという隠しているようで隠していない笑い声が聞こえる。いや、あれは聞かせているのだろう。笑っているのだというように。
誰が笑っているか、なんてのは大して重要じゃない。どうせ、相手がわかっていてもどうすることもできないのだ。
いじめられている、なんて陳腐な言葉で片づけるのも癪な話だ。そもそも、いくらいじめだと騒ぎ立てたところで、解決どころかもっとひどくなるだけだ。
事なかれ主義の先生なんて何の役にも立たない。何の問題もなしと報告されて、はいおしまい。彼らが大事なのは生徒じゃなくて自分のキャリアなのだ。
仮に熱血の先生だとしても、校長からありがた~いお話が聞けるだけだ。わあ、すごい、ありがたい。もういじめるのはやめよう、なんてことになるはずがない。
彼らの重い尻なんてずっと椅子に腰かけたままだ。私が屋上から飛び下りでもすれば、そこでようよう持ち上がるのだろう。口先だけの謝罪を吐き出すためだけに。
とても不毛だ。校長の頭くらい不毛だ。いじめ問題なんて今の時代はどこにでもあって、でも被害者以外の誰にとってもいじめじゃないのだ。
だったら、どうすればいいのか。決まってる、ただ耐え忍べばいいだけ。死なないように、心だけ死ねばいいだけ。
まったく、青春は素晴らしいなんて言ったやつ、どこのどいつだ。私と代わってからその言葉を言ってみろとでも言いたいものだ。
あーあ、吸血鬼でも襲ってこないかな。全員いなくなっちゃえばいいのに。私も含めて。
青春という地獄
女子のカーストほど厳格で残酷なものはない。誰もがそれを無意識のうちに知っていて、誰もが下に落ちることを命を落とすより怖れながら過ごしている。
大人たちはみんな理由を求めるけれど、女子のいじめにはっきりとした理由なんてない。
なんとなく気に入らないから。そんなものだ、きっかけなんて。みんなでいじめることができる奴を見つけることさえできれば、それで。
学校の中は猿の檻の中だ。どいつもこいつもキィキィ騒ぎ立てて、自分こそが猿山のてっぺんに登ろうと躍起になっている。
くだらない、うん、くだらないね。学生の本文は勉強のはずなのに、教科書なんかよりも人の顔色ばかり見ている。
まあ、そもそも私の教科書は先日トイレに捨てられたからとても読めるような代物ではなくなっていたのだけれど。
青春って、そもそも、なに。青春は良いぞと言っている大人たちでさえ、その問いのはっきりとした答えを誰も知らない。
彼らはきっと、いじめる側の人間か、いじめられない人間だったのだろう。彼らにとっての青春は、平和で、平穏なものだったのだろう。
振り返ってみて、あれは良い思い出だったとぬけぬけと言えるくらいには。
そんな人たちは、青春の本当の姿を知らないからだろうと思う。青春という狡猾な悪魔と顔を合わせないような、純真な人たちだったのだろうと思う。
そもそも、自己顕示欲と、自我への不安と、日常への鬱憤を詰め込んだような少年少女たちが集まっていて、高潔な学び舎なんてものになるはずがないのだ。
青春は、これ以上なくどろどろで、汚らしい。
吸血鬼が再び阿良々木暦の暮らす町に訪れる
病院に立ち寄るのは久しぶりのことだった。といっても僕、阿良々木暦は、取り立てて注射が嫌いだというわけでもないし、白衣恐怖症でもない。
にもかかわらず、ここのところ、大小かかわらず病院から遠ざかっていたのは、十七歳の春休みに二週間ほど吸血鬼と化して以来、僕は怪我とも疾病ともほぼ無縁になったからだ。
にもかかわらず、このたび、こうして直江津総合病院に足を運んだ理由は、僕が親よりも頭の上がらない大人から呼び出しを受けたからだ。臥煙伊豆湖さんである。
第四病棟五階の一室で、臥煙さんに促されて僕は、ベッドの上の『患者』に目をやる。寝台に横たえられていた『患者』は木乃伊だった。
入院用の患者衣を着せられているものの、少なくとも、生きた人間ではない。そう見えた。
ところが、木乃伊となった彼女は、その状態でも生きているという。心臓も動いているし、呼吸もしている。
僕は臥煙さんの説明を聞きながら、木乃伊の髪をそっとかき分けるようにして慎重に女の子の首筋辺りを確認した。
そこには小さな二つの穴が穿たれていた。まるで蛇にでも噛まれたかのような。あるいは鬼にでも吸われたかのような。
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