『世界名作劇場』で、『フランダースの犬』のアニメを見たことがある。今より何年も昔のことだ。
誠実で正直な少年、ネロと、助けられた恩を彼に返そうとする忠犬、パトラッシュ。
画家を志すネロは、人々に裏切られ、夢にも破れ、失意のままに雪の中で衰弱していく中で教会に迷い込む。
そこには、本来ならばお金を払わなければいけないはずの、彼がずっと焦がれていたルーベンスの絵。
彼は今わの際にその絵を見て、涙を流しながら、パトラッシュとともに天に召されていく。
そのあまりにも切ない物語は、幼いながらも強く私の心を打った。今もまだ、その衝撃が消えることはない。
しかし、それ以上の、その時とはまた別種の衝撃を知ったのは、それから数年後のことである。
とある一冊の本が教えてくれたのは、なんと、『フランダースの犬』が現地ではほとんど知られていない、ということだ。
あれほどの名作がどうして知られていないのだろう。私の疑問は尽きなかった。その答えをくれたのも、やはりその本であった。
タイトルを、『アニメで読む世界史』という本である。アニメ好きだったからタイトルに惹かれて読んでみれば、受けたのは衝撃の真実の連続だった。
『フランダースの犬』はベルギーを舞台にしている。しかし、なんでも、作品に描かれているベルギーとその当時の現実のベルギーの間には、大きな齟齬があるらしいのだ。
その齟齬が現地の人には受け入れられず、『フランダースの犬』はほとんど放送されることはなかった。日本人には知らない人はいないほど知れ渡っているのに。
その本は他にも、さまざまな作品を取り上げて、アニメ世界と現実の歴史を照らし合わせていた。
その結果、現れてくるのはアニメと現実との齟齬や、あるいは、アニメの背景に読み取れる詳細な歴史の息吹であった。
『アルプスの少女ハイジ』『小公女セーラ』『レ・ミゼラブル少女コゼット』『母をたずねて三千里』。
誰もが知っているような名作。しかし、歴史と照らし合わせてみると、その物語はまったく違った姿を見せてくれる。私は瞬く間に魅了された。
私は歴史の授業が嫌いである。特に、世界史ともなれば、ちんぷんかんぷんだった。
しかし、アニメと比べてみると、同じ世界史のはずなのに、その本の語る歴史は、教師の子守歌と違ってすんなりと私の脳に刻まれていった。
嫌いなもの、として捉えてしまうと、入ってこないに決まっている。嫌いなものを知って良いことなんて何もないからだ。
しかし、好きなことのためならば、嫌いなことだという意識が起きない。なにせ、知れば知るほど、自分の好きも深まっていくのだから。
『世界名作劇場』の主な舞台は19世紀のフランスやイギリス、ドイツ。かつては何も興味を抱かなかった私は、今や、強い親近感を覚えている。
だって、そこはハイジとクララが仲良くなり、セーラが女学院に入って、コゼットが生きていた場所なのだから。
私は世界史が大好きになった。あの無機質な年表の上には、どこかに大好きなアニメのキャラクターがたしかに息づいていることを知ったのだ。
アニメが教えてくれる歴史
アニメから世界史がわかって、受験を控えている人は読めば大学入試も通るし、サラリーマンの方には、同僚との会話のネタができる。そんな本があったら、最高やね。
ぼくにはとてもそんな本は書けそうにないので、集まってくれた筆者の皆さんに、がんばってもらうことにしました。できたのが『アニメで読む世界史』です。
ここで題材として取り上げるアニメは、いわゆる『世界名作劇場』として放送された、一般に広く知られたアニメ作品です。
アニメを何気なく見ていると気付かないとは思いますが、一歩下がって見ると、『世界名作劇場』の作品が共通の時代背景を抱えていることがわかります。
ここで取り上げたほとんどの作品が、19世紀を舞台とし、大規模な空間的移動と社会階層の変動という、世界史の二つの大きな動きを反映しています。
歴史の大きな流れについては、各章を順番に読んでいただくと、だいたいわかるようになっています。かたい話はこれくらいにして、おもしろい内容を少しだけ紹介しておきましょう。
ハイジは本当にチーズフォンデュを食べていたのか。ミンチン先生はなぜ陰気でいじわるなのか。イタリア人のマルコは、なぜアルゼンチンで自由に会話しているのか。
コゼットは本当にお母さん思いのかわいらしい少女だったのか。『フランダースの犬』は、なせ現地のベルギーでは評判がかんばしくないのか。
まとまった知識もいいでしょうが、毎日の会話でちょっと使えそうなネタ帳、それでいて教科書では得られないような、世界史の全うな最新知識も得られるような本、それがこの本です。
とても小さなエピソードから、私たちの社会の本当の姿が見える時がある。本書がそうした本として読まれることを望んでいます。
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