年を取る、とは、果たしてどういうことなのか。祖父が亡くなった時、私はそんなことを思っていた。
祖父は私の記憶にある限りでは、ずっと寝たきりだった。たまに会うと、にっこり笑ってお菓子をくれた。
祖父はかつて公務員として勤めていたらしい。葬式の時に訪れた弔問客の人数は、凄まじいものだった。
けれど、私は働いていた頃の祖父は知らない。彼らの語る祖父の姿は、私のまったく知らない男だった。
私が知っているのは、いつも布団に寝そべっていて、骨と皮のように痩せた祖父の姿だけだった。
今、改めてそのことを思い出すことが増えた。その度に思う。年を取ることの不条理を。
必死で働いて家族を支え、けれど、その末路はあんなにも痩せ細って、布団の上でただその時を待つだけ。息子や娘からは陰でいろいろと言われ、朽ちていく。
祖父の人生最期の数年間。ただ寝たきりの生活を送るだけだった祖父は、いったいどんな気持ちだったのだろうか。
そんな思いを抱いていたからか、図書館でその本を見かけた時、普段ならば何の興味も抱かないはずのその本を、思わず手に取っていた。
それは帚木蓬生先生の『老活の愉しみ』という本である。
「老活」とは、老後の人生を楽しく過ごすための活動のことを指す。私にとってはなんとも先の話になるけれど。
医療制度や年金、介護の問題などによって、社会的、家庭的に老人が邪険に扱われることがある。
人生を必死に生き抜いてきた彼らに最期に待ち受けるのがそんな扱いというのは、あまりにもひどい。
その原因となるのは、いわば社会制度や長年染みついた慣習によるものだけれど、それ以上に根本を改善する必要があるのだ。
すなわち、健康。健康上の問題こそが、年を取ることの問題としてまとわりついてくる最大の障壁となる。
身体を健康に保つこと。それだけで、老人ができることは格段に増える。社会的にも家庭的にも、役割を持つことができるのだ。
日本は長寿大国と呼ばれる。けれど、長く生きることに対して私たちは素直に喜ぶことはできない。
それは、ただ寿命が延びたとしても、その伸びた時間のほとんどを寝たきりで過ごすことになるからだ。
『老活の愉しみ』では、寿命と健康寿命の格差が広がっていることが問題なのだという。健康寿命は、健康に活動することができる寿命のことだ。
つまり、「長寿」という言葉の裏にいる老人たちの多くは、ただ家族の我儘で命をつないでいるだけの寝たきりの老人たちなのだということ。
「老活」の鍵は、この健康寿命を延ばすことにある。「健康こそ宝」というのはまさしく言葉通りだ。
けれど、私にはどうにも共感できないところがあった。それは、「老活」の真髄を、老人になっても社会の一員として働くことに価値を置いているところである。
七十歳現役社会、八十歳定年社会。その本では、そう書かれていた。けれど、私は、それは嫌だな、と思う。
それとも、老人になると、仕事を続けたいと思うものなのだろうか。私にはまだわからないだけなのかもしれない。
暇をなくすことが「老活」のひとつであるという。けれど、それはつまり、最後の最後まで動き続けろということだろうか。
今まで頑張ってきてくれた老人たちだからこそ、ゆっくり過ごしてもらいたい。そう思うのは、若さゆえの傲慢なのだろうか。
「仕事」とはまた違う、自分だけの愉しみ。彼らが自分たちの確かな「居場所」を手に入れてもらえること。
必死に生き抜いた先の人生に、楽しみがあればこそ、私たちも生きることを楽しむことができるようになるのではないかと思うのだけれど。
老活の手引書
随分以前から、「就活」さらには「婚活」が人の口にのぼるようになり、この十数年は「終活」が取り沙汰されています。
人生の終わりのため、あらかじめ準備活動をするのが「終活」だそうです。なんという浅慮でしょう。嘆かわしい限りです。
現在、医療や福祉、年金に費やされる総額は百兆円を軽く超えています。高齢者による国の出費を増大させないためには、介護が必要な不健康期間を、限りなくゼロに近づけなければなりません。
動物は動くものと書きます。人も動物ですから、動き続けるのが本来の生き方です。動かないと、動物も病み、人も病みます。
しかし高齢者が動けば、これらの資金が生きてきます。高齢になっても、何度も自己啓発と再教育に活用できるのです。
七十歳現役社会、八十歳定年社会では高齢者も有効資源であり、英知と知識を有する人材として、大いに活躍が期待されます。
これこそが、私が提唱する「老活」です。本書では、老活を実現するための工夫を、さまざまな角度から論じています。
この手引書によって、ひとりでも多くの方々が、今日からでも老活を開始していただければ、本書の目的は達せられたと言えます。
老活の愉しみ 心と身体を100歳まで活躍させる (新書762) [ 帚木蓬生 ] 価格:891円 |
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