時は乱世。その有様はかつての戦国時代のようである。天下を手にせんと鎬を削る国は企業へと姿を変え、言葉の刀を用いて鍔競り合う、姿なき言葉の戦が各所で繰り広げられていた。
血は流れぬ。命も落とさぬ。だが、それは紛れもなく戦であった。俺の身体を巡る血が覚えている。あの乱世の時代を。食うものにすら困窮し、奪い奪われ、誰もが生きることに必死であった、あの時代を。
現代の教科書に綴られる戦国時代、俺はその頃、浅井家に仕える一足軽であった。といっても、大した武勲も持ち合わせていない、下っ端の下っ端である。現代に伝えられる歴史の中に、俺の名はない。
我が主君である長政様は野村合戦、知られているところの姉川の合戦において討ち死にした。俺が流れ矢に刺さって呆気なく命を落としたのは、彼の亡くなる少し前のことであった。
そんな俺が一企業の社長として参戦できたのは、まったくの幸運の導くところと言わざるを得ない。あの頃で言う武将になれたのだから、元が足軽であることを考えれば大出世もいいところだ。かの太閤様には敵わぬが。
恥を忍んで言おう。俺は調子に乗っていたのだ。我が身に降りかかった栄華に歓喜し、会社を立ち上げた頃の志はどこへやら、自己保身と金欲に塗れた野心へと姿を変えて、気が付いた頃にはすでに何もかもが遅かった。
つまるところ、俺は武将の器ではなかったのだろう。会社の業績はすでに地の底まで落ちて、手を取り合っていたはずの社員からは見放された。笑うがいい、この愚かな姿を。日光様よろしく画家にでも描かせてみてもよいくらいだが、そのための金すらなくなった。
燃え尽きたまま呆然と佇んでいた俺の目に、ふと、一冊の本が飛び込んでくる。それは社長室のデスクの上にあった。俺ではない。だが、誰が置いたか。そんなことはもはやどうでもよかった。そのタイトルに視線が惹きつけられる。
『織田信長の経営塾』という本である。北見昌朗という者が書いたらしい。著者の名こそ俺は知らなかったが、タイトルに登場している名前は嫌というほど知っている。
俺を屠り、主君を討ち取ったその人こそが、織田信長公である。長政様とは義兄弟の関係であったが、信長公が浅井家との約束を違えたために決裂し、合戦の末、長政様は命を落とす結果となった。
憎き相手かと問われれば、さすがに当時の恨みを現代まで持ち続けているわけではない。だが、現代において彼が誰も知らないほどの戦国武将として知られていることを初めて知った時は大層驚いた。俺の認識では、彼は未だに田舎の一武将に過ぎなかったからだ。
だが、なるほどその功績に目を向けてみれば、あの時代では考えられないようなことを色々としていたらしい。うつけものであったがゆえの常識破りが、歴史には良い結果として働いたのだろう。
俺はその本を手に取り、ページをめくる。片田舎の武将に過ぎなかった彼が、いかにして天下人へと手をかけるまでに至ったのか。その真相を、見てみたいと心から思った。
どうやらそれは、現代の会社の社長や若手の経営者などが集う経営塾に、あの世から織田信長公が再臨し、講義を行う、といったようなものであるらしい。
彼の傍若無人ぶりを知っている俺からしてみれば、その本に書かれている織田信長公は実に落ち着いている。あの世に行って丸くなったのだろうか。
だが、家臣を社員に、国人を社長に見立てて信長公の国とりを現代の会社経営と照らし合わせた視点は実におもしろいものであった。
何より驚くのは、現代から見ても、信長公の経営感覚は通ずるところがある、という点だ。今では一経営者となった俺だからこそ、そのことがよくわかった。彼は戦国武将であるということ以前に、優れた経営手腕を持つ経営者であったのだ。
俺は息を吐く。今ならば、あの頃の俺が、浅井家が敗北した理由がよくわかる。むしろ敗北して当然であった。その真実を今になって知るとは、奇異な時代になったものである。
その本に登場している信長公は、長政様と話し合わなかったことを悔いていた。そのことに心が温まる。彼がたとえ本物の信長公ではないとはいえども、それだけで、あの頃の我が主君の苦悩が報われたような気がするのだ。
信長はいかにして家臣をまとめたか
日本社会は安定した時代が終わり、動乱の時代に突入した。まず必要なのは、認識を変えることである。「世界は動乱の時代に入った」、そして「戦国時代は、倒すか倒されるか、食うか食われるかである」。
世界的な動乱の時代の中で、日本はこれから下剋上を伴う本格的な実力主義の社会に突入すると思われる。そこで目を戦国時代に転じてみよう。戦国時代の代表者は言うまでもなく織田信長である。
信長の本質は革命家である。信長は、過去の常識やしきたりを一切否定して、自分の頭で考え、一から作り直そうとした。その合理的な精神は現代に通じるものがある。
信長のやり方は、経営という観点からみても大いに参考になる。信長が行ったのは、「人材を積極採用する」「勝てる状態を整えてから戦う」「手柄を立てれば分捕り放題とする」というもので、ここまで積極的な戦い方は日本史上に例がない。
戦国の世は、戦に勝てるかどうかがすべてである。だから、これからの経営は「戦闘集団作り」がテーマになるだろう。一騎当千の部下を揃え、ライバル企業に勝てる戦をしなければいけない。
この本は信長が現代に蘇り、塾長となって、若手経営者を相手に講義を行う形になっている。信長がどのように部下を採用し、育成し、最強の軍団を作ったのかを学んでほしい。
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