大人になったハリーと息子の物語『ハリー・ポッターと呪いの子』J.K.ローリング


今まで夢中になった作品は何か、と聞かれたならば、私が答えるのは、ひとつしかない。『ハリー・ポッター』。私はきっと、これからの人生であの作品ほど夢中になるものとは、もう出会えないだろう。

 

私が幼い学生だった当時、初めて上映された『ハリー・ポッターと賢者の石』は瞬く間に世間を席捲するブームとなった。その記憶は、今でも記憶に焼き付いている。学校の教室でも、魔法の呪文が毎日のように飛び交っていた。

 

しかしその中でも、私ほど『ハリー・ポッター』シリーズに耽溺していた奴はいなかっただろう。なぜなら、その分厚さゆえに小学生ならば敬遠する原作小説をも、私は読み耽っていたからである。

 

私はそもそも映画館に足を運ぶことは滅多にないのだが、シリーズを通して一作目から最後まで映画館で見たのは『ハリー・ポッター』シリーズが初めてだった。本も出版してからすぐ、購入していた。

 

そんな私が、シリーズの完結編である『死の秘宝』の続編として、新作『ハリー・ポッターと呪いの子』があると聞かされた時に、どれほど心躍ったか。

 

にもかかわらず、今日まで読むまでに至らなかったのは、かつて私の中のハリー・ポッターの物語が、完結編を以て美しく終わっていたからである。言うなれば、そこに続編は蛇足だと内心で感じていたのだ。

 

とはいえ、手に取ったのは、やはり気になったからであるが。読んでしまったらもう、後戻りはできない。私は相応の覚悟を、9と4分の3番線に飛び込む瞬間のような覚悟を胸に、そのページをめくった。

 

『ハリー・ポッターと呪いの子』は今までの作品と違い、舞台をそのまま小説にしたような構成となっている。だから、幕の間をキャラクターたちが行き来していることが記され、時系列の移動も大胆である。

 

ヴォルデモートとの戦いから十九年後、ハリーは大人になっていた。魔法省闇祓い局の局長というエリートであり、相変わらず有名人のようである。

 

彼には三人の息子がいる。ジェームズとリリー、そしてアルバスだ。物語は、この次男のアルバスを中心に描かれることになる。

 

初めてホグワーツに向かう汽車に乗ったアルバスが仲良くなったのは、スコーピオンという少年。彼はなんと、かつてハリーのライバルだったドラコ・マルフォイの息子である。

 

ホグワーツでの組み分けで、スコーピオンはスリザリンになった。そしてアルバスの頭に組み分け帽子が被せられる。「スリザリンになりませんように」というアルバスの願いも空しく、帽子は高らかに「スリザリン!」と叫んだ。

 

かつて、私が心を躍らせた愛おしいキャラクターたち。彼らが再び物語の中で動いていることに、私は深い感動を覚える。

 

親友になったアルバスとスコーピオン。彼らの関係は犬猿の仲だった父親たちとはまるで正反対だ。アルバスは父親であるハリーの名の重さに苦悩する。一方、スコーピオンもまた、死食い人であった一族への敵意や出生の疑惑に苛まれている。

 

かつて、生き残ることで精一杯だったハリーは、息子との関係が上手くいかないことに葛藤していた。その様子を見ると、「ああ、あのハリーも大人になったんだな」と、思わず口角が緩んでしまう。

 

ハリーとヴォルデモートの戦いは終わりを告げた。けれど、魔法の世界にはまだまだ、ワクワクするような冒険に満ちている。

 

その魅力的な物語はずっと昔に、私にひとつの魔法をかけた。それは今もまだ、私の思い出の中でずっと生き続けているのだ。

 

 

大人になった彼ら

 

人々がそれぞれの目的地を目指して慌ただしく行きかう駅。雑踏の中、荷物を山のように積んだカートが二台、それぞれに大きな鳥籠を載せてガラガラと進んでいく。

 

カートを押しているのは二人の少年、ジェームズ・ポッターとアルバス・ポッターだ。母親のジニーが息子たちの後を追うように歩いている。37歳になったハリーは、娘のリリーを肩車している。

 

「パパ、こいつ、何度も同じことを言うんだ」

 

「ジェームズ、いい加減にしなさい」

 

「こいつがスリザリンに行くかもしれないって言っただけさ」

 

ホグワーツ急行の吐き出す白い蒸気がもうもうと立ち込めるプラットホーム。このホームも騒がしい――しかしここにひしめいているのは、可愛い子どもたちをどんな言葉で送り出そうかと思案している、ローブ姿の魔法使いや魔女たちだ。

 

「9と4分の3番線だ」

 

ハリーが指差した先に、ロンとハーマイオニーと娘のローズがいる。リリーは勢いよく三人に駆け寄っていく。ロンがハリーたちを振り返り、リリーを抱きあげた。

 

「パパ……」

 

アルバスが父親のローブを引っ張る。ハリーが息子を見下ろす。

 

「あのね――もしも僕が――もしもスリザリンに入れられたら……」

 

「そうなったら悪いかい?」

 

「スリザリンは蛇の寮だ。闇の魔術の……勇敢な魔法使いの寮じゃない」

 

「アルバス・セブルス、お前はホグワーツの二人の校長先生の名前をもらった。ひとりはスリザリン出身だが、父さんが知っている中で、おそらく一番勇敢な人だった」

 

「でも、もし……」

 

「それがお前自身にとって気になることなら、組み分け帽子はお前の気持ちを汲んでくれる」

 

「ほんと?」

 

「私にはそうしてくれた」

 

ローズは列車に向かって歩き始める。アルバスはローズに続く前に振り返り、最後にもう一度ジニーとハリーを抱きしめる。警笛の音が数声、プラットホームに響く。

 

 

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