オリンピックという大舞台で、日本人選手が卓球の金メダルを取った瞬間を、私はテレビの画面越しに眺めていた。抱き合って喜ぶ彼らの姿を、歓喜の声が包んでいく。
卓球の選手と言えば、やはり福原愛さんがまず頭に浮かぶ。次いで、最近になって名前を知った伊藤美誠さんと平野美宇さんこと、「みうみま」辺りが想起される。
しかし、私が知っている卓球の選手と言えばこのくらい。男子選手に至っては、ひとりすらも名前が出てこないのである。
ところが、最近になって、ひとりの選手の名をよく耳にするようになった。水谷隼選手。伊藤美誠さんとダブルスを組んで、卓球の金メダルを獲得したことで水谷隼さんは一躍時の人となったのである。
今までは誰も知らなかったことの反動か、その名前は私の記憶に刻み込まれることとなった。だからだろうか、立ち並ぶ本の中に彼の名があったのを見つけて、思わず手に取ってしまった。
『打ち返す力』。水谷隼著。やはり卓球の本かとも思ったが、どうもそうではないらしい。興味を惹かれて、私は読んでみることにした。
その本は、彼が卓球を通して経験することで身につけた彼自身の哲学や価値観を記している一冊である。それは卓球だけでなく、ビジネスや勉強など、さまざまな場面で役に立つだろう。
驚くべきは、彼の強さへの飽くなき執着である。学生の頃、彼は親を説得して、ひとり、ドイツに留学する。何のためか。もちろん、卓球に強くなるためだった。その頃の彼はなんと14歳だったという。
多くの人が日本という小さな国の中で上に行こうと足掻いている中、彼ひとりだけは海外を見据える視点をすでに持っていたのだ。
日本とは全く異なるドイツの練習と、屈強なドイツ人選手に鍛えられたことで、彼の卓球の実力は飛躍的に高まったのである。
国内という視点にとどまらず、より大きなところを視野に入れる視野の広さと、14歳にしてドイツ留学することを決めるその行動力こそが、彼を後に金メダル選手として持ち上げることとなったのだ。
ふと思い返せば、私も14歳の頃には卓球をやっていた。運動は苦手なうえ、好きでもなかったから、そこまで必死にはやっていなかったけれど。
一度だけ、県大会にも行ったことがある。一回戦で手も足も出ずに敗退したが、悔しさもなく、あまりの負けっぷりに笑いすら零れていた。内心には「ああ、やっぱり」という虚ろな諦観だけがあった。
もうひとり、私と同級生ながらも卓球が上手く、ベスト8まで進んだ友人は負けた後、涙を流していた。私はその光景を、ぼんやりと眺めていたのを覚えている。
もしも、彼のように負けて悔しいと強く感じることができたなら。あるいは、水谷選手のように卓球で強くなろうとより高みを目指していけるメンタルがあったなら。
今や卓球すらも苦手意識を抱いている私にも、別の道があったのかもしれない。今になって、そんなことを思う。当時の私は、ただ本当に卓球を「していた」だけだった。
県大会への出場が決まることとなる予選。対戦相手の表情を、今でも覚えている。小柄で、少し小太りの子だった。こめかみには、うっすらと汗をかいていた。彼の表情は、悔しさと必死さとで、歪んでいた。
涼しい顔で突っ立ったままボールを打ち返す私は、果たして彼と向き合っていたと言えるのだろうか。彼は今、いったいどこで何をしているのだろう。ふと、そんなことが気になった。
負けないためのメンタル
足がガクガク震えていた。ただ立っているのすらつらい。小さい頃から夢にまで見てきたオリンピックの金メダルが、すぐそこにある。手に届く位置に見えている。
だが卓球王国・中国のスーパープレイヤーは、ここからいくらでも追い上げて迫ってくる。今までだって、あと一息のところまで追いつめたのに、彼らのせいで散々な目に遭ってきたではないか。
2021年7月26日、私は東京体育館で混合ダブルスの決勝戦を戦っていた。勝負は最終第7ゲームに突入していた。何をどこに打ってもハマる状態が続き、得点差は8-0に開いた。
中国チームとて、このまま易々と金メダルを引き渡すタマではない。そこから競りに競ってどんどん相手が追い上げ、デュースに追いつかれることはいくらでもある。
9-5に追い上げられたそのとき、奇跡が起きた。伊藤選手が逆チキータをかますと、わずかにボールがネットにかすって敵陣に入ってくれたのだ。
卓球の神様は、伊藤選手と私に勝ってほしいと最後の最後で味方してくれたのだ。
本書は、私が一般読者向けに記した初めての著書だ。中高生や就職活動中の学生、ビジネスパーソンなど、幅広い読者に本書を読んでもらいたい。
卓球という競技は、心理戦、メンタルの要素が強くモノを言う。試合を通じて相手の心理と戦術を読みこみ、卓球を通じて対話していく。
競技を通じて得た私の経験と卓球哲学は、普遍的な汎用性があると思う。仕事や学業、目の前の課題を「打ち返す力」を身につける。最強のメンタル、鋼のメンタルで武装する。そのためのヒントを提示したつもりだ。
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