働かない者たちが紡ぐニートティーンストーリー『神様のメモ帳』杉井光


 とりあえず、どんなところでもいいから仕事に就いて、適当に働けばいい。あの頃のぼくは、そんなことを考えていた。

 

 

 けれど、それは甘かった。あまりにも甘い考えだった。その甘い考えの報いを、ぼくは身を以て知ることになった。

 

 

 大学に入学して、つつがなく卒業するまでは順調だったのだ。ぼくは地元の企業に内定をもらった。

 

 

 特にやりたい仕事ではなかった。ただ、働きながら趣味に打ち込むつもりだった。

 

 

 しかし、そんな考えで会社の人たちと噛み合うはずもなく、ぼくは次第に仕事が耐えられなくなっていった。

 

 

 毎朝、会社に向かうのが苦痛になっていく。どうしてこんなことをしなければならないのかという想いが強くなっていった。

 

 

 そうして、とうとうぼくは会社を辞めることにした。就職してからたったの一年しか経っていなかった。

 

 

 以来、ぼくは仕事に就いて、すぐに辞めるということを繰り返す生活に落ちぶれていた。

 

 

 最初の職場での失敗が、どうやら精神の深いところにまで染みこんでしまったらしい。

 

 

 どれだけ頑張って働こうとしても、あの頃に感じた虚しさと苦痛が不意に浮かび上がってきて、そうすると、途端に何もかもがどうでもよくなるのだ。

 

 

 気がつけば、ぼくは仕事というそのものに対して嫌悪感を抱いてしまっていた。どんな仕事でも長くは続かない。ひどいときは一週間しかもたない時すらあった。

 

 

 かつて抱いていた未来予想図とはほど遠い。自分が内心で蔑んでいた人生の形がそこにはあった。

 

 

 ニート。今の私は間違いなくそれだった。仕事に就かず、学校にも通わず、ただ毎日を浪費しているだけの人たち。

 

 

 どうしてこうなってしまったのだろう。なんて、嘆いたところですべては自分のせいなのだ。言い訳にすらもならない。

 

 

 ぼくの人生に何の価値があるのだろう。こんな、働きもせず、誰の役にも立たず、迷惑しかかけないだけの人生に、何の意味があるのだろう。

 

 

 失業保険の支給金も、もうすぐなくなってしまう。そうなったら、いよいよおしまいだ。

 

 

 いっそ、生きるために続かない仕事を転々とするよりも、こんな価値のない人生なんて終わりにした方がいいんじゃないだろうか。

 

 

 そんなことすらも考えた時、ぼくは出会ったのだ。杉井光先生の『神様のメモ帳』に。

 

 

ニートとしての生き方

 

 『神様のメモ帳』に登場する人物の多くはニートであり、働いていない。女性の世話になったり、依頼を解決して報酬を得たりすることで日々を凌いでいる。

 

 

 高校生の鳴海はクラスメイトの彩夏に連れられて、とあるラーメン屋に赴く。そこにいたのは日々働きもせず、日々集まっては騒ぐニートたちだった。

 

 

 彼らはニートであることを誇り、堂々と自分たちはニートなのだと言った。恥じることもなく。

 

 

 曰く、ニートとは雇用されていない人間のことであって、所得のない人間というわけではない、と。ニートとは、生き様であるのだと。

 

 

 主人公の鳴海はニートを駄目人間だと思っていた。かつてのぼくと同じように。そして、彼らはそれを否定することはない。

 

 

 人から何を言われようとも、自分の信じた道を突き進む。それが生きるということなのだと、その物語は教えてくれたのだ。

 

 

 他人の意見に振り回されて、自分の道を見失ったら、それこそ本当に駄目人間ではないか。

 

 

 『働いたら負け』。それでいいじゃないか。指を差されて笑われたとしても、自分が満足できていればそれで良いのだ。

 

 

 そう思った途端、ぼくの目の前にいくつもの生き方が広がった気がした。まるで世界が広くなったかのようだった。

 

 

 生き方は雇用されるだけじゃない。いろんな生き方があって、誰もがそれを自分で選び取ることができる。

 

 

 生き方なんて人それぞれだ。ただ、どんな手段であっても、生きてさえいればそれで十分だ。生きてて偉い。まさにその通り。

 

 

 未来がぼくに問いかけていた。今はその姿がはっきりと見えたような気がするのだ。

 

 

誇り高きニートたちが依頼を解決していく

 

 十六歳の冬に、僕は実にいろんな人と出逢った。ボクサー、軍人、ヒモ、探偵。彼らはみんな種類の違うニートだった。

 

 

 ニートというのはやる気のない無職の若者を指す言葉だと思っていたけれど、ニートにもそれぞれの顔がある。誰もが同じ理由で仕事をせず学校にも行っていないわけじゃなかった。

 

 

「ニートというのは、何かができない人間や何かをしようとしない人間のことじゃないんだ。違うのはただ、ルールなんだよ」

 

 

 探偵は僕に教えてくれた。

 

 

「先に進みたい人間にとっては邪魔だろうね。指差して嗤いたい気持ちもわかるよ。でも、ぼくらはぼくら自身を嗤わない。それが生きるってことだよ。ちがうかい?」

 

 

 僕は答えられなかった。そんなこと、これまで考えたこともなかったから。だって、なんか小難しそうなこと言ってるけど要するに駄目人間だろ?

 

 

 でも、その冬に僕は生きることについて自分なりにほんの少しずつ考え始めることになった。生きることをやめちゃったやつとかを見たら、たぶん、誰だってそうなる。

 

 

 でも、それはずっと後の話だ。まずは、その冬に僕が出会った人たちの中でただ一人の、ニートじゃない普通の女の子のことから話そうと思う。

 

 

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