どうしてこんな力を私が持っているのか、わからなかった。いっそのこと、普通の女の子だったなら、こんな思いはしなかっただろうに。
物心ついた時から、私にはもう、それが見えていた。それはたとえば、人の過去だったり、想いだったり、亡くなったその人の家族だったりした。
幼い頃は、私はそれが誰にでも見えているのだと信じていた。それがそうではないのだということを私が知ったのは、小学生の頃のことだ。
「探しているもの、物置にあるみたいだよ、下の階の」
ある時、友だちが大切にしていたぬいぐるみを失くしたと言って泣いていたから、教えてあげた。
どうやら、その子の兄がいたずらでぬいぐるみを隠して、そのまま忘れてしまったみたい。
その子がぬいぐるみを本当に大切にしていることを知っていたから、親切心で教えたのだけれど、結果としてそれがよくなかった。
ぬいぐるみは見つかったらしい。私が言った通りの場所に。けれど、翌日から、私は彼女から『盗人』と呼ばれていじめられた。
彼女は小学生にもなってぬいぐるみを大切にしているのを恥ずかしがっていたから、誰にもその悩みを言っていなかった。それを私がみんなの前で言ってしまったのだ。
しかも、彼女の家に行ったこともない私が彼女の家の物置の場所を言い当てたのも、疑惑を生むことになった。
すなわち、私が犯人じゃないのか、という疑惑。それは、まさに私が言った通りの場所からぬいぐるみが見つかったことで、むしろ断定されてしまった。
私が彼女の家に忍び込み、彼女のぬいぐるみを盗んで、物置に隠した。彼女とその友達の中では、それが真実になった。
見えると言っても誰も信じてくれない。当然だ、彼女たちには見えないのだから。
小学校時代を、私は彼女たちからいじめられて過ごした。心の痛みは、私に力を使うことの危うさを教えてくれた。
見えていても無視する。語りかけてきても聞かない。私は普通の女の子になろうとした。中学生の頃には、ほとんど見ないように生活できていた。
けれど、高校生の時。私はひとつの出会いをした。それはきっと、運命だったのかもしれない。
「すごいね、その力」
彼は私の力を肯定し、認めてくれた。異常なものを見る目で見られないし、すごいと誉めてくれた。
そんな彼に、私は恋をしたんだ。
普通の女の子に
私は彼と二人で撮ったデートの写真を見つめた。二人とも笑顔で、ピースしている写真。私の目から一筋の涙が零れる。
微笑みを浮かべる彼の顔にそっと触れると、彼と別れる前の思い出が胸に蘇ってきた。
私の力を受け入れて、称賛してくれた彼。きっと、彼は優しい人だったのだろう。けれど、次第に変わっていった。
「ねえ、持っている能力を使わないなんてありえないよ。君は選ばれたんだ」
彼は私の能力をメディアに売り渡し、お金を稼ごうと考えたのだ。そう提案してきた彼の目に、もう出会った頃の優しさはなかった。
彼にとって私の能力はまさしく宝だった。けれど、逆に言えば、彼が見ていたのは私の能力だけで、私自身は見てくれていなかったのだ。
彼は次第に私を道具のように思うようになっていった。金儲けのための、便利な道具。
彼のもとを去る時、彼は泣いていた。彼の心には、それでも、道具に対する執着のようなものしかなかった。
もう私には、恋なんてできないのかもしれない。そんな頃だった。望月麻衣先生の『天使の魔法』を読んだのは。
『天使シリーズ』は私がずっと好きだったシリーズで、『天使の魔法』はその八作目だった。
不思議な力を持つ美少女、まりあ。けれど、彼女の生き方は、私とはまったく違うものだった。
力を無理に隠そうとせず、恋に全力で向き合って、ごまかさずまっすぐに生きていく。その姿は、私にはたまらなく眩しい。
力がなければ。何度そう思ったことだろう。こんな力があるから、私はこうなったのだ、と。
けれど、きっと、力がなくても、私はこうなったのだろう。自分を騙して、無理に捻じ曲げて生きようとしていたのだから。
そうじゃないんだ。力もひっくるめて私自身。ありのままの自分を受け入れる。自然のままに、生きること。
それが大切なんだ、と。その物語は教えてくれた。
自分の力が私は嫌いだった。けれど、きっと力がなくなってしまったら、私は苦しくなるだろう。自分自身を失くしてしまったということだから。
自分の好きなところも、嫌いなところも、みんな自分だ。だったら、自分を嫌うんじゃなくて、嫌いながらも受け入れて、がんばろう。
私も、いつか恋ができるだろうか。私はふっと思わず笑みを零して、辛かった過去を、ピッと削除した。
成長した魔法使いの恋
雄太は東工大地球惑星科学科で教授として教鞭を振るいつつ、様々な研究を行っていた。
雄太は三十二歳。その若さで教授になるというのは異例のことだったが、彼を知る者は誰もが納得していた。
十六歳でハーバード大学に入学し、その後の東工大に移ってからの目覚ましい活躍はその業界で知らない者はいなかった。
雄太がパソコンに向かい、論文を書いていると、同じ研究室の男たちが「経歴もルックスも言うことなしで、モテモテで彼女もいて、さすがは小林教授ですよね」と話していた。
彼女、か。雄太は昨夜、その『彼女』に平手打ちされた頬にそっと手を当てた。
”私との結婚を考えているの?”
そう訊ねてきた彼女に「考えたこともない」と答えたら、思いきりビンタされた。まあ、当然といえば当然なんだろうけど。
日本に移り住んでから、好奇心を抱いた相手と交際してきたけど、やっぱりぴんと来ない。
顔をしかめながら腕を組んだ雄太に研究室のみんなは「あの天才が頭を悩ませている」と顔を見合わせ、ごくりと息を呑んだ。
その時、研究室のドアがノックされると同時に、まりあが姿を現した。
艶やかな栗色の髪に大きな瞳、愛らしい顔立ちに、可愛らしい笑顔。研究室の男たちは顔を上げて鼻の下を伸ばした。
「さっそく来てくれると思わなかった。ありがとう」
「バイトだもん、飛びつくよ」
変わらないそっけない口調に、まりあはクスクスと笑った。雄太の後をついて、研究室の続き部屋である教授室に入っていく。
中央のテーブルには、石の欠片のようなものが置かれていた。まりあはそっと石の欠片に手を伸ばし、ゆっくりと目を閉じた。
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