衝撃の問題作『おにぎりスタッバー』大澤めぐみ


「恋愛したい」

 

 

 突然そう言った友人の目は真剣だった。珍しい、いつもはちょっと斜に構えた感じでクラスのきゃぴきゃぴした女子を嘲笑っていたのに。

 

 

 とはいえ、そのいかにも乙女らしい願望を言っている割には、瞳が真剣なものだからサムライのようにすら見える。そこらの男なら斬られてしまうバッサリ斬られてしまうんじゃないだろうか。

 

 

「どういう風の吹き回し?」

 

 

 なにせこの女、告ってきた男に顔色ひとつ変えず「無理」と情け容赦なく一刀両断するほどの豪傑である。彼女に恋愛という概念が存在していたことが驚きだ。

 

 

「これを読んだの」

 

 

 そう言って彼女が取り出したのは一冊の本。『おにぎりスタッバー』と書かれている。

 

 

「おにぎり? スタッバーってなに? スタバの変化形か何か?」

 

 

 彼女曰く、この本、読みにくいけどめっちゃおもしろかった、と。いや、説明短くね? 私が強請ったらあらすじを教えてくれた。

 

 

 アズは、そこらへんにいるような普通の女の子。ちょっと「男食ってる」とか噂が立ってるだけの、普通の女の子。

 

 

 そんな彼女は唯一の友だちの魔法少女、サワメグから、「穂高センパイ」がアズを好きらしいよ、と聞かされた。

 

 

 キャー、私にもついに桃色の青春が、なんてはしゃぐことなく、けれど、それとなく穂高センパイを目で追ってしまう、なんだかとっても青春っぽい日々。

 

 

「こんな感じの青春異能バトルファンタジーね」

 

 

「後半はどっから持ってきたの」

 

 

 けれど、そういうことらしい。読んでみたら字がぎっしりと詰まっていて、おまけに話があっちこっち飛んで、なるほど、たしかに読みにくいね。

 

 

 けれど、それなのに、どこか惹きつけられるものがあった。というか、なんかクセになる。先がちっとも読めない。

 

 

「ね、私もアズみたいに恋愛したいなって思って」

 

 

「男を食いまくるってこと? ひくわー」

 

 

「違ぇし。そっちにいく発想にひくわ」

 

 

 いやまあ、冗談ですけどね。わかるんだよ、うん。彼女の言いたいことも。彼女が本当は何を求めているのかを。

 

 

 青い春と書いて青春と読む。その季節は一瞬のうちに過ぎ去っていく。青い春は熟したら終わりなのだ。

 

 

 恋愛なんてその春の中のひとつでしかない。けれど、彼女が誰かを好きになったとか、そういうことではないんだろう、きっと。

 

 

 恋に恋する。とにかく恋愛がしたい。誰でもいい、わけじゃないけど。それが彼女の突然の恋愛宣言の真意だろう。

 

 

 ほんの数年で走り去っていく青春は、いくら止まってと声をかけても止まらない。じゃあ、その間、花の女子高生たる私たちは何をするべきか。その季節を全力で楽しまなくちゃあいけない。

 

 

 いろんなものが入り乱れてカオスになっているのは当然のこと。それこそが青春だと言える。

 

 

 私たちには時間がない。あっという間に過ぎ去っていく青春を眺めながら、ぼうっとしている時間はないのだ。

 

 

 とにかくいろんなことをする。そのためには、いろんなことを頭の中にパンパンに詰め込まないといけない。

 

 

「で、誰を好きになったの?」

 

 

「いやいや好きな人はいなくて。ただ恋愛がしたいってだけ」

 

 

「いないんかーい」

 

 

 ほら、やっぱり。私たちの話はまた飛び回る。恋愛もしたい。でも、他にもやりたいことはたくさんある。

 

 

 青春は一生に一度だけ。早く。早く。このフィーバータイムに、誰もが乗り込もうと必死なんだ。

 

 

ハイテンポで、カオスで、奇想天外

 

「あなたの好きなように自由に生きなさい。せっかく生まれてきたんだから、自分の好きなように自由に生きなきゃ甲斐がないでしょ」

 

 

 そんなようなことをよく言っている母親だった。あ、なんか変に過去形になっちゃってるけど現役バリバリで存命中なのでご心配なく。

 

 

 ひとり娘にそのように言って聞かせるような母親なものだから当然のように本人も自由にやっているっぽくて昔から家は留守にしがちでどこでなにをやっているんだかよくわからない。

 

 

 自分のお弁当も自分で作って学校に持っていく。サワメグもお弁当を自分で作って持ってきてるんだけどサワメグのはカラフルでかわいい。

 

 

 サワメグはわたしの高校での初めての友だちで、魔法少女。いちおうみんなには内緒なんだけど、むしろ積極的に「魔法少女で~っす」みたいな芸風でやっててスルーされるっていうそういうアレなわけ。

 

 

 すでに学校でも指折りの変人ってことで有名になってて、わたしが唯一ツルんでいるのが魔法少女なものだからますますアンタッチャブル感だけがましましでこれ以上友だちができる見込みは薄い。

 

 

「でもアズはモテるんじゃないの? だって男食いまくってるんでしょ?」

 

 

「それとこれとは話が別っていうか」

 

 

「んじゃアレは? 日下部穂高。穂高センパイ」

 

 

「誰それ?」

 

 

「え、知らないの? アズが女子から不人気な理由のひとつ。穂高センパイがアズにホの字っぽいから。アンタやっかまれてるのよ」

 

 

 サワメグに引っ張られて屋上に行ってホラあれだよっていうのをマジカル双眼鏡で覗いてみたら、ああそういえば接点があったかもなぁって感じがある。

 

 

 放課後、夕暮れ時、わたしが校門の手前でちょっと立ち止まっていると「どうしたの? 忘れ物?」と声をかけてくる人がいたので、わたしは西の空の低いところを指す。「宵の明星です」以上、回想終わり。

 

 

「それだけ?」

 

 

「うん、それだけ」

 

 

 サワメグとそんな話をしてから改めて見てみると、意外と私と穂高センパイの距離感が近いことに気付く。まず通学に使ってる電車が同じ。

 

 

 そんなわけでわたしはここのところ毎朝電車でチラチラ穂高センパイの方を盗み見ている。

 

 

 たまにフッと目が合うような気もする。慌てて目を逸らす。てな感じで私の生活もここ最近のほんのちょっとの時間だけ青春してるっぽさがある。

 

 

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