学校に代々語り継がれてきた噂話の真相とは?『放課後にシスター』中島さなえ


神のご加護があらんことを。シスターと言えば、どんなものを想像しますでしょうか。清貧、貞潔な女性の象徴であり、その身を神に捧げた人。ですが、神の奇跡よりも科学の奇跡が重んじられる現代において、その祈りの下には何があるというのでしょう。

 

中には真実、深い信心を持っている方もおわしますけれど、忘れてはならないのは、彼女たちもまた人間であるということ。人間である以上、理想的な、本物と言える修道女はなかなかいないのです。いわんや現代においては。

 

中島さなえ先生の『放課後にシスター』という物語を知っておりますでしょうか。この本を読んで、「シスター」の印象ががらりと変わった人というのも少なくないのでは?

 

舞台は星南女学院という、キリスト教系の女子校でのこと。斉木仰美という女性が、過去に在学していた頃の思い出を誰かに語っているところから始まります。

 

仰美さんは学校のイベントのため、友人の映子さんと、一年生の桃加さん、そしてOGの大学生、猪野さんとともに作業をしていたらしいですね。

 

さて、女三人寄らば姦しいとも申しますけれど、もちろん、無言で作業というのも味気ない。彼女たちが話題として選んだのは、彼女たちの学校で噂があった「シスター峰」という女性のことでした。

 

かつてのっぴきならない事情で学校を去ったという「シスター峰」。ですが、その真相は長い時間の果てに背びれ尾ひれが加えられて、とうとうその形すらも見えなくなっておりました。

 

懸想していた男と駆け落ちした。では、その相手の男性とは誰か。女優のように美しかった。悪女か、いや清廉な女性であったか。学年ごとに噂は入り乱れ、真実を知る者は誰もおりません。

 

ならば探してみようと、彼女たちは「シスター峰」の噂や、彼女の残していった証拠を探し求めます。そうして浮かび上がってきた真相とは、果たして何か。

 

神に貞節を誓ったシスターと言えど、ひとりの女性であることに変わりなく。恋愛もするし、罪も犯すでしょう。嫉妬もするし、嘘も吐く。それこそが人間という生き物でありますゆえ。

 

噂などというのは実にいい加減なもので、真実を好き勝手に歪めてしまうもの。それは、規律に厳しい女学院といえども変わらないのでしょうね。

 

キリスト教系の女学院というと、いわゆる世間とは別世界の、秘められた場所のように感じますけれど、まあ、所詮はこんなものなのでしょう。つまるところ、隔絶されているように見えて、実際は地続きなのだということですよ。

 

ですが一方で、この物語には、そうした、神に仕えるシスターの、逃れられぬ人間としての業を描くと同時に、いわゆる「本物のシスター」の姿も描かれておりました。

 

隣人を愛せよ。キリストの言葉は、長い年月の中ですっかり歪められてしまったように思います。キリスト教徒の何人が、その言葉を実践に移すことができたのでしょう。

 

しかし、それはやはり、宗教というものの根幹として鎮座しているのです。性別も、身分も、年齢も、関係性も、そんなものは何も関係のない、見返りもなく、自らの身すら顧みない、ただただ無償の、隣人への愛。

 

私はその人間の起源とも言うべき大切なものを、この物語に登場するひとりの女性の中に見たのです。そこには、私たちが長らく忘れていたものが、あったように思うのですよ。

 

 

シスター峰の真実

 

ひとつだけ、どうしてもお聞きしたいことがあって、ここにうかがいました。わたしはこの春から母校・星南女学院へ四年ぶりに戻りまして、教鞭を執ることになっております。

 

中学校・高校を過ごした学舎のなにもかもがなつかしいのですが、母校に帰る時、わたしはなによりもさきに、高校二年生の十二月に過ごした七日間を頭に思い浮かべます。

 

星南の生徒の口から口へと三、四十年も前から伝えられている、シスター峰についてのうわさ話に熱中した、無邪気な冬の放課後を思い出すのです。

 

神に一生の誓いを立てたはずのシスターが男性と駆け落ちをし、行方をくらましたという面妖な言い伝えは、いつだってわたしたち生徒の心をつかんで放しません。

 

生徒のうわさによって、好き勝手に捻じ曲げられた道。シスター峰が辿らざるを得なかった道。どこまでが本当でどこまでが虚構なのか、わたしはあれからもずっと考え続けていました。

 

クリスマスまであと一週間と迫った火曜日。あの時はわたしたち二年生をはじめ、他の学年の生徒や先生方、保護者やOGの誰も彼もが、クリスマスバザーの準備に追われていました。

 

その週はホームルームが終わってからも、わたしたちにはやるべき仕事がたっぷりと残されていました。その年、わたしと映子は二十九班でした。作業の場所は旧校舎にある古びた実験室。割り振られた仕事は、銀杏の種の袋詰めです。

 

寒々としたオンボロの実験室をあてがわれた二十九班は、二年生のわたし、斉木仰美と、映子、一年生の久保桃加ちゃん、OGで国立大に進学していた猪野可菜子先輩の四人でした。

 

退屈しのぎにわたしたちのあいだで様々な話題が持ち上がります。学年関係なく盛り上がるのは、流行っているテレビ番組の話や恋の話。

 

なかでもダントツでしたのは、星南女学院の生徒たちのあいだで代々ささやかれていた、シスター峰に関するうわさ話でした。学院で英語を教えていたシスター峰が、三十数年前のある日、なんの前触れもなく男性と一緒に行方をくらましたという伝説。

 

 

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