本を読めば世界が変わる。私は、それをただの読書家の自慢か何かだと思っていた。それが真実だったと知ったのは、自分が読書するようになってからのことだ。
そもそも、私はあまり本を読む人間ではなかった。それが変わったきっかけは、友人から佐藤優先生の『人をつくる読書術』を読んだことである。
「これ、おすすめだから読んでみて!」
そう言われて渡されたのだが、最初は乗り気ではなかった。その本を受け取ったのも、渡してきた相手が尊敬している先輩だったからである。彼が勧めるものなら。それだけが理由だったのだ。
そもそも、著者である佐藤優とは何者か。その名を聞いたことはなかった。その疑問の答えは、本の中に書かれていた。
どうやら、かつて外務省を勤めていた人物で、結構な大物であるらしい。しかし、鈴木宗男事件の関係者のひとりとして摘発され、失職した。
先生はその体験から学んだことを、本の中に記している。「読書とは関係ないじゃないか」とも思いながら読んでいたが、後に一気につながることとなった。
なぜなら、「読書」から得られる知識と、これまでの人生における「体験」から得られた知識が、その人自身の教養となっていくからだ。
留置所で過ごしてきた体験と、読書から得た知識が入り混じったからこそ、現在の著者がある。佐藤先生の著書は鈴木宗男事件を「国策捜査」として告発して大きな反響を呼び、先生自身は知識人のひとりとしてマルチな活躍をするようになっている。
『人をつくる読書術』の中では、先生自身の読書から学んだことや体験を踏まえて、「その人になるにはどういった読書をすればいいか」を紹介している。
教育者、作家、外交官などに加えてキリスト教者まで、幅広く佐藤先生自身の考え方を踏まえたうえで解説されているのだ。
最初こそ否定的に読んでいた私だったが、気が付けば、前のめりになって、本にかじりつくように文字を追いかけていた。それほどまで、その本に魅了されたのである。
思い出すのは、かつて反感を覚えていた言葉だ。本を読めば、世界が変わる。その言葉が、読み終わったすぐ後の私の心に、深く突き刺さるような気がした。
タイトルに偽りなし。まさしく読書は「人をつくる」のだ。読書すれば、教養が育ち、人格が成長する。そのことを、私はようやく自覚することができた。
それ以来、私はよく本を読むようになった。それまで本を読まずにいた自分のことを、少し後悔するほどだった。
今では、読書家の端くれとして日夜本を読む生活を送るのが当たり前になっている。かつては何時間もかかっていた読書も、早く正確に、浸りながら読むことができるようになってきた。
何より、読んだ本が自分の「教養」として身についていることを実感できるのだ。自分の読んできた本が、私自身の骨肉となっていることが。
それこそ、私が読書をするようになったことで得たもっとも大きな報酬だろう。この本は、私にその楽しみを教えてくれたのだ。
しかし、気をつけなければいけない。この本が伝えたいことは二つあるという。すなわち、「よい本」と「よい友人」である。本だけを追求していてはいけないのだ。
「書を捨て旅に出よ」という言葉がある。それは正しくはない。本を読むことによって得られるものは、何者にも代えられない価値を持つ。
だが、旅を捨ててもいけない。もっともよいのは、「書を持って旅に出よ」だろう。旅に出て、さまざまな人と接する。その会話の土台となるのは、読書によって得た知識だ。
かつて、私は、本をよく読む人はコミュニケーション能力に乏しいだろうと思い込んでいた。だが、実際にはその真逆であることを身を以て知ったのだ。
私は読書をするようになって、今までよりもさらに素晴らしい人間関係を築くことができるようになった。かつての私なら、今付き合いがある彼らのような人たちとは会話もままならなかっただろう。
読書をすることによって、私の人生は大きく変貌を遂げた。読書が私に「良い友人」をくれて、私の人生を豊かにする知識を授けてくれたのだ。
私の身体は本によってつくられている。そして、今の私はそのことを、何よりの誇りだと思うのだ。
教養が人格をつくる
最近、教養という言葉がよくとり上げられる。ただし、教養とは何かと問われて、ひと言で説明するのは難しい。
教養とは、想定外の出来事に適切に対処する力である。それまで経験したことのない状況や出来事に対して、どう判断しどう行動するか。その人の全人格、能力が試され、「総合知」が不可欠になる。それがすなわち教養だと私は考える。
本書で伝えたかった重要な事柄は二つある。よい本を読み、よい友人を持つことだ。それによって知的関心が広がり、読書の質が向上する。すると、さらに多くの人と深い部分でつながることになる。
それは人格の土壌を形成し、やがて豊かな実をつける栄養源になるだろう。つまり、人生を力強く生きる最大の力になる。
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