現代、なんでもスマホひとつあれば解決する時代である。本もまた、スマホに移植されるようになり、「いずれ紙の本はなくなるだろう」という声も聞こえてくる。
しかし、本当にそうだろうか。その説に異議を唱えたのは、福嶋聡先生だった。彼がそうした噂に対する自分の意見を述べたのが、『紙の本は、滅びない』である。
そもそも、どうしてこの本を手に取ったかといえば、知人とそのような話になったからである。知人は、「紙の本はなくならない」という意見だった。
もちろん、本好きとしては紙の本が残った方が嬉しい。しかし、どこか不安があったのだ。時代は進む。利便性が重視されていくにつれ、いずれ紙の本が全て電子書籍に転換されて、紙の本が姿を消すことだってあるかもしれない。
この本を読んだのは、不意にそのような未来への恐怖を感じたからである。しかし、福嶋先生のタイトルにもある力強い断言は、幾分か私の心を救ってくれた。
しかも、この本を読んでみると、実に驚くような展開をしていくこととなる。インターネットが発展すればするほど、紙の本の価値は高まっていくだろうと、先生は作中で言っているのだ。
それはどういうことか。つまり、利便性とはまた異なるところにある、紙媒体としての特徴である。しかもそれは、決してネットに代替できない。
古来、人類は遥か昔から歴史を紙に書き込んできた。今から何百年も昔のころである。驚くべきは、それほどの長い時間を経ても、紙の本は残ったままなのだというところにある。
私たちがそもそも、自分が生まれるよりも遥か昔のことをどうして知っているのか。それは紙の本が果たしてきた功績だ。そして、紙の希少性がその信頼性をさらに増す結果となる。
対して、ネットはどうか。ネットは紙と比べて圧倒的に歴史が浅いのもあって、「果たして数百年後にデータが残っているか」を今、知ることはできない。
しかし、わかるのは、根幹となるデータが吹き飛んでしまうとどうしようもないということである。それに、情報量が多く統制されていないからこそ、ネットの信頼性はあまりにも弱い。
そもそも、本も財布も、何もかもをスマホひとつでできるというのはたしかに便利であるが、それは逆に考えれば「スマホがなければ何もできなくなる」ということである。
回線が通っていない時。充電が切れた時。壊れた時。スマホは何の役にも立たなくなる。しかし、本はそれひとつだけでひとつのコンテンツとして確立されている。
ネットの強みは、逆に弱みでもある。その弱みを解消できるのが紙の本なのだ。ネットが広まれば広まるほど紙の本の価値が高まるのは、ネットの利便性が高いからこそである。
『紙の本は、滅びない』を読むと、ネットと本の相反した関係が明らかになった。そこでようやく私は、紙の本がなくなるという未来への不安を解消することができた。
しかし、そもそもだ。私は紙の本が好きだが、一方でネットでも本を読んでいる。紙の本がなくなったならば、ネットで読めばいいだけの話だ。なのにどうして、紙の本にそこまでのこだわりがあったのか。
改めて自問自答してみると、答えは簡単だった。ネットと紙の本では、その本に対する入り込み方がまったく違うのだ。
ネットで読んでいると、どうしても目が上滑りして、記憶に残らない。どれだけ面白かった作品であっても、思い出せないのだ。
しかし、紙の本を読む時は、食い入るように読む。とにかく一言一句を逃さないよう、内容をなるべく頭に入れようとする。だから、読んだ作品を忘れるということがない。
そもそも、『カラマーゾフの兄弟』や『人間失格』のような、どれだけ時を経ようとも愛される不朽の名作が、ネット社会に生まれ出でたことがあっただろうか。
情報はすぐに過ぎ去ったものとして通り過ぎていく。通過列車のようなものだ。せっかく作品を楽しむのなら、私は鈍行にでも乗り込んでゆっくりと、噛みしめるように読みたいのだ。
紙の本がなくなる?
もしも将来、この世界から書物がなくなってしまったら……。
今、多くの人がさまざまなドキュメントを電子媒体に残しているが、時が経ち、ハードそのものがまったく変わってしまったりしたら、まったく読むことができなくなるかもしれない。
これは、実に恐ろしいことではないか。その意味で、紙に載ったコンテンツについては、検索もしにくいし何かと不便ではあるが、とりあえず安心できる。
われわれは、「紙の本」のメディアとしての安定性、信頼性、そしてその強さをも、再確認し、もっともっとアピールすべきなのである。
性急に「書物」の終焉を説くことは、「書物」の持つもっと大事な特長を看過することであり、ひょっとすると冊子体の優位性も見逃してしまうことになるかもしれないのである。
インターネットは本当にべんりである。しかし、使えば使うほど、この場合は書物の方が便利だな、と思うことも多くなってくる。
インターネット空間に漂うコンテンツが膨大になればなるほど、「書物」の必要性が増すのではないか、とぼくが思う所以である。
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