大正百年の世界に飛ばされてしまった少女『小説 千本桜』一斗まる
私は満開の桜の木を見上げて立ち尽くしていた。白い花びらが雪のように私を囲んで舞い散っている。
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
私は満開の桜の木を見上げて立ち尽くしていた。白い花びらが雪のように私を囲んで舞い散っている。
「君は、彼女と友達だろう?」
そんな得体の知れないもんなんざ信用できるか。祖父の口癖だった言葉を思い出す。
「やあ、君も来たのか」
青春、なんて聞くとやたらと輝かしい、眩しいもののようにも見えるのだけれど、いったい誰が言い出したのだろう。
恋人と大喧嘩をした。これほどまでに激しい喧嘩になったのは、本当に久しぶりのことである。
あーあ、もうひとり、私がいてくれたらいいのに。なんて、私はそう願った。願ってしまったのだった。
それは昔々の物語。はるか遠くの国の、あるところに、ひとりの王子がおりました。
彼女は愚かである。そして、彼女が愚かなことは、彼女以外のクラスメイトの誰もが知っていた。
鏡の中の世界、という別の空間の存在を、私は子どもの頃、たしかに信じていたものである。