四姉妹の絆と成長を描いた名作『若草物語』オールコット


「もう嫌だ! こんなことなら、もっとお金持ちの家に生まれたかった!」

 

ダメだと思いつつも、思わず言葉が口をついて出てきた。母の表情が変わる。その傷ついた表情に気付かないふりをして、私は母に背中を向けて自分の部屋に駆け込んだ。

 

扉を背に座り込んで、私はしばらく顔を伏せていた。自己嫌悪がずきずきと私の胸を締め上げている。あの一瞬の母の表情が、脳裏に焼き付いていた。

 

私の家は貧乏だ。けれど、子どもの頃からそうだったから、私も慣れているつもりだった。今までだって欲しいものも我慢してきた。けれど、今回ばかりは限界だったのだ。

 

「ああ、そういえば、あなたのところはお金がないんだったね。じゃあおそろいはできないかぁ」

 

クラスメイトの彼女のその言葉は、深く私の心に突き刺さったような気がした。悔しさと恥ずかしさのあまりに噛みしめた唇。

 

私は母に「欲しいものがある」と言いに行った。けれど、母の答えはいつもと同じ。「お金がないから」。それを聞いて、今まで抑えていたものが、一気に爆発してしまった。

 

わかってはいるのだ。父も母も必死に働いてくれている。私が我儘を言っているだけなんだ、と。そんなことくらい。

 

「ねえ、こんなお話があるんだけど、聞いてくれる?」

 

ふと、背中をもたれさせていたドアを隔てて声が聞こえた。母の声だ。私は黙りこくったまま、その声に耳を傾けた。

 

「あるところに、四人の女の子たちがいました。美人だけど虚栄心の強い長女。活発で物語が好きな次女。大人しくてみんなから愛されている三女。ませていてオシャレな四女」

 

これは、何のお話だろう。思わず興味を惹かれた私は、より聞こえやすいように扉に深く背を預けて、目を閉じた。暗闇の中に、母のゆったりとした声だけが響く。

 

彼女たちは、とても貧乏でした。けれど、とても心の美しく、家族思いの子たちでした。クリスマスの夜、母の靴がぼろぼろなのを見た四人は、小遣いで買おうと思っていた自分のプレゼントを我慢して、母にプレゼントを贈ることにしました。

 

クリスマスの朝、目を覚ました彼女たちの枕元には、聖書が置かれていました。彼女たちはそれを読んで、心を改めて立派な人間になることを誓います。

 

さて、その日の朝食を食べようとした時、母から言われました。

 

「生まれたばかりの赤ちゃんと六人の子どもを抱えた家族が、食事も食べることもできずにいる。あなたたちの朝食を、その人たちへのクリスマスの贈り物にしませんか?」

 

四人は空腹だったけれど、快く了承しました。彼女たちはその家に赴き、温かい食事と、ささやかな劇をプレゼントしてあげました。

 

プレゼントはなくとも、満ち足りた想いの彼女たちが家に帰ると、そこには驚きの光景がありました。なんと、豪勢な食事が並んでいたのです。

 

なんでも、彼女たちの行動に感銘を受けた隣人のローレンスさんが、彼女たちのために食事を用意してくれたとのことです。

 

四人は大いに喜んで、幸せなクリスマスを過ごしました。この後、そのローレンスさんの家の男の子と友だちになるのですが、それはまた別のお話。

 

「……なんか、あざといね」

 

でも、きれいな話。口ではひねくれたことを言いつつも、私はそんな感想を持った。貧乏だけど幸せな家族の情景が、ありありと浮かんでくるかのようだった。

 

「オールコットの『若草物語』よ。何なら、読んでみる? おもしろいよ」

 

「……読む」

 

お金があるかどうかを幸せの尺度にする人は多い。でも、お金があったとしても、心が貧しければ、きっと幸せになんてなれない。

 

大切なのは、心が豊かであるかどうか。自分たちが貧乏であっても、朝食を分け与えて幸せになれるような、あの四姉妹たちのように。

 

わかっているつもりだった。でも、忘れてしまっていた大切なこと。この物語は、そんな当たり前の大切なことを、たくさん教えてくれたのだ。

 

 

四姉妹の絆

 

メグが妹たちを見渡しながら言い出した。

 

「あなたたちわかっているわね。お母様がこのクリスマスにプレゼント廃止を言い出しなすったわけは、今年は誰にとっても特別に辛い冬だろうからというわけなのよ」

 

「でも、わたしたちが少しばかり浪費を慎んだって、何の足しにもならないと思うわよ。私、母さんやあんたたちから何ももらわない点は同意してよ。だけれど、自分のためにどうしても『ウンディンとシントラム』という本を買いたいわ」とジョーが言った。

 

「私は新しい楽譜を買う計画だったの」ベスは小さなため息とともに言った。

 

「わたくしは上等のフェバー会社の色鉛筆を買いますわ。わたくし実際に必要なんですもの」とエミイはきっぱりと言った。

 

時計は六時を報じた。ベスはすばやくストーブの火をかき立て、一足の上靴を温めるためにその前へ並べた。その古ぼけた靴はどうやら娘たちの上に好ましい影響を与えた。

 

「この靴、すっかり傷んでしまったわ。母さんに新しいのが必要ね」とジョーが呟いた。

 

「わたし、一ドルのお小遣いの中から買ってあげようと思っていたのよ」とベスが言った。

 

「いいえ、わたしが買ってさしあげますわ」とエミイが叫んだ。

 

「わたしたちね、いいことがあるのよ……みんな自分のものを買うのをやめにして、お母様にクリスマスプレゼントしてさしあげましょうよ」とベスが提案した。

 

「うん、そりゃいい。ベスちゃんらしい考えだわね! 何を買ってあげるとしようかな」とジョーが大声をあげた。

 

 

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