今までなかったものがブームになる『「ない仕事」の作り方』みうらじゅん


仕事がない。四畳半の汚い部屋の真ん中で、俺はぼんやりと天井を見上げた。スープだけ残ったカップラーメン、潰れた空き缶、空っぽのスナック菓子の袋、ころがったペットボトル。何か世の中があっと驚くようなことを、やってみたかった。

 

でも、そんなのが簡単にできるわけがない。具体的なアイディアは何も思い浮かばなかったし、仮に思い浮かんだとしてもどうすればいいか、さっぱりわからなかった。

 

「あーっ、くそっ」

 

胸中に渦巻く、何かもやもやとした気持ちを吹き飛ばそうと、俺は身体を伸ばした。爪先が積み重ねていた本を蹴り飛ばす。文字の雪崩の音。萎える。

 

何を馬鹿なことをやっているんだ、俺は。ため息を吐いて、倒れた本をまた邪魔にならないところに重ねていく。ふと、その途中で俺は手を止めた。

 

手に取った本をじっと見つめる。『「ない仕事」の作り方』というタイトルだった。著者はみうらじゅん。知っている。長髪にサングラスの、何か胡散臭い外見の人だったはず。

 

それは昔の俺が買ったはいいものの、なんだか読む気が起こらなくて積読しているうちにすっかり存在を忘れてしまっていた代物だった。だが、そのタイトルは今の俺にぶっ刺さる。

 

何かが俺を導いてくれている。とか、中二病みたいなことを思いながら、俺はページをめくった。

 

まず、ゆるキャラのことが書かれている。もちろん、知っている。少し前にブームになった地域のキャラクターのことだ。なんと、その「ゆるキャラ」という言葉はみうらじゅんが造ったのだという。それは知らなかった。

 

そして、「マイブーム」という言葉も。この本は、そんなふうに「マイブーム」を広めていく手法を解説しているらしい。

 

これだ、と思った。世の中があっと驚くようなこと。「マイブーム」で、世間を驚かせるのだ。俺は途端に心がわくわくした。ブームを待つのではなく、俺自身がブームを作るのだ。続きをめくる。

 

まずは、今まで誰も注目しなかったものを見つける。「ゆるキャラ」はその言葉が生まれるよりもずっと前から存在していた。ただ、誰も目をつけなかっただけなのだ。

 

そして、マイナス要素を前に出す。本来、キャラクターがゆるくてはいけない。でも、だからこそ良い。そうした発想から、「ゆるキャラ」は生まれた。

 

そして、何よりも大事なのは、「これは絶対に流行る!」と自分自身で信じること。洗脳すること。誰も見向きもしなかったそれを、一番大好きになることだ。

 

次第に、世の中が勝手に認め始める。解説する人たちが出てきて、社会にどんどん広がっていく。そうして、「ブーム」は出来上がっていく、らしい。

 

今まで、流行に乗ることばかり考えていた。でも、考えてみれば、それはたしかに誰かが考えて流行らせたのだ。なら、それが俺になってもいいじゃないか。

 

仕事を創り出す。ブームは乗るだけじゃなく、作ることだってできるんだ。ネットなんて便利なものがある今だからこそ。俺は目を光らせた。世の中にはきっと、まだまだ見つかっていない宝石があるはずなんだ。

 

 

ブームの起こし方

 

私が漫画家としてデビューしたのは1980年のことでした。ずっと活動を続けてきて昨今、「みうらじゅんのやっていることって、もともとなかった仕事なんじゃないの?」とバレ始めてきました。

 

私の仕事をざっくり説明すると、ジャンルとして成立していないものや大きな分類はあるけれどまだ区分けされていないものに目をつけて、ひとひねりして新しい名前をつけて、いろいろ仕掛けて、世の中に届けることです。

 

このように「ない仕事」を作っていこうと意識し始めたきっかけは、「マイブーム」という言葉でした。

 

それまで私は、自分が「これは面白い!」と思ったものや事柄に目をつけ、原稿を書いたり、発言したりしてきましたが、世の中の話題にならないことのほうが多かったことは確かです。

 

そこで、「だったら流行るかどうかをただ待つのではなく、こちらから仕掛けていこう」という発想に至りました。私の流行を、世の中に広めていく。本来、これが「マイブーム」の本当の意味だったのです。

 

”本当に好きで、まだ皆が知らない面白いこと”を世界に届けたい。そのためには「ブーム」を起こすことが必要なんです。ブームにならないと、誰も見てくれませんから。

 

ネタを考えるのも自分。ネーミングするのも自分。デザインや見せ方を考えるのも自分。イベントなどで、それを発表するのも自分。クリエイティブだけでなく、戦略も営業もすべてひとりで行うわけです。

 

本書は、そんな私の「マイブーム」を広めたその手法を、すべて紹介してしまおうという企画です。

 

どんな仕事であれ、「やりたいこと」と「やらねばならぬこと」の間で葛藤することが多いと思われます。肝心なのは、「自分をなくす」ほど、我を忘れて夢中になって取り組んでみることです。新しいことはそこから生まれます。

 

本書を最後まで読んでいただければ、そのための心構え、やり方、コツ、といったものが見えてきて、それが実はどんな仕事にも応用がきくものだということが、おわかりいただけるのではないかと思います。

 

 

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