委員長は一頭の虎に睨まれた『猫物語 白』西尾維新
「あなたは、今まで生きてきた中で嫌な思い出とかは、ございませんでしょうか。いっそ、忘れ去りたいほどの」
「あなたは、今まで生きてきた中で嫌な思い出とかは、ございませんでしょうか。いっそ、忘れ去りたいほどの」
私はメールに書かれた文面を見てため息を吐いた。そこに書かれているのは彼からの、どこか愛想のない文章。
黒い雨が大地に降り注ぐ。さながら、かの人の最期を世界が悲しんでいるかのようだった。
「いえ、結構です」
ああ、喉が渇く。私は忌々しげに喉を掻き毟る。しかし、それでもこの堪えがたい渇きを癒すことは出来ない。
「『無人警察』って知ってる?」
「本物と、それとまったく同じ、区別もつかないような偽物があったとしたら、どちらのほうが価値があると思う?」
幼い頃の私の一番古い思い出は、彼に頭を撫でられる記憶でした。その手がとても大きかったのを、よく覚えています。
「『想い』ってのは大変なものだよね」
その人と会ったのは、茹だるように暑い夏の日のことでした。その人は行き交っていく人たちの中で、どこかぼんやりと立ち尽くしていました。